>   >  VFXアナトミー:ドキュメンタリー番組で培った恐竜づくりのノウハウで表現するフォトリアルな怪物、スーパープレミアム スペシャル時代劇『荒神』
ドキュメンタリー番組で培った恐竜づくりのノウハウで表現するフォトリアルな怪物、スーパープレミアム スペシャル時代劇『荒神』

ドキュメンタリー番組で培った恐竜づくりのノウハウで表現するフォトリアルな怪物、スーパープレミアム スペシャル時代劇『荒神』

02 怪物の襲来~ロケ撮影~

広大な屋外ロケーションのリアリティキャプチャにも挑戦

怪物のセットアップは、MORIEの田島誠人氏が一手に引き受けた。MayaプラグインのAdvanced Skeltonを使い、関節の位置は決まっていたので、プライマリなリグを組んだ上で印象的な部分、顎の下、二の腕などにマッスル、揺れもののシミュレーションを施していったそうだ。「(泥から創られて間もないという設定のため)体がグニャグニャと柔らかく、体表には無数の目があります。その上、未発達のため宙ぶらりん状態の足がマッスルの影響を受けつつ、体の動きに応じてブラブラと揺れる。前肢を伸ばしたときにも、形状破綻しないようになど、相当大変でした。最終的にはブレンドシェイプターゲットをつくって強引に直したり......時間もなく突貫工事になったので課題が浮き彫りになりましたね」と、MORIEの森江康太ディレクター。

ショットワーク(エフェクト、ライティング&レンダリング、コンポジット)はNHK内のチームが担当。接地、煙作成、影落とし用に地形を起こす必要があったので、今回ドローンでフォトグラメトリー用の素材となる空撮動画を撮影の空き時間に撮ってもらったとのこと。資料を作って、農村エリアと漁村エリアに分けて撮影。マット用に家の情報もほしかったため、家周りもしっかりと撮ってもらったようだ。「この規模をドローンで撮ったのは初めて。主にカメラ合わせとか、レイアウトに使用しましたが、これのおかげでとても捗りました。特に現場に行っていないスタッフは重宝しました。アタリとしてはとても良かったし、今後も活かせそうです」と、日髙氏。フォトグラメトリー作業にはContextCaptureを使用。動画から拾って1秒間隔くらいで、7,000枚ほどを使用。認識がおかしいのを1枚1枚削ったりしながら1週間ほど調整。解析だけで半日ほど要し、さらに調整した上での再解析をくり返したそうだ。MORIEにもデータが提供されたが、影を落としたい場合は、若干メッシュがガタガタしているのでplaneを引き直してレンダリング。HDRIも撮影の空きを見て、晴れ、曇り、夕方、朝などパターンを撮影。THETA Sでも撮られたがレンジが足りなかったのでLUMIX DMC-GH4に魚眼レンズを装着して追加のリファレンスを収集したという。

前項で述べたコンセプトアニメーション。実写撮影にあたり、怪物のイメージをある程度確立、スタッフ並びにキャスト間で共有しておく必要があったため、NHKサイドからのオーダーを受けMORIEが作成


通常の歩行モーション。20メートル近くある怪物の大きさや重さが伝わるよう細部にわたって調整を重ねたという



  • 走り。通常は動きの少ない怪物が、猛スピードで人物に迫るときなどに用いるため、コモドドラゴンの機敏な走りを参考に迫力と恐怖感が追求された



  • 舌を伸ばして捕食する動き。カメレオンを参考に、ゆっくりと標準を定めた後素早い動きで獲物を捕らえるといったメリハリと迫力が出るように意識したという。舌が収まる動きは掃除機の電源コードの巻き取りを参考にしたそうだ



  • 尻尾で建物を破壊する動き。基本的に怪物は意思を感じさせない(何を考えているのかわからない)動作が付けられたが、これについては標的に尻尾を当てるという、明確な敵意が込められた



  • 心臓(赤点部)に銃弾を受けた際のリアクション。「実写撮影を行う上で、この動作時の心臓の位置を把握する必要があったため、一番最初に作成したコンセプトアニメーションになります。立ち上がるという非現実的な体勢になるため、動きの方向性に悩みました」(小川氏)



  • 怪物のセットアップ。Advanced Skeltonをベースにしているが、複雑な動き、挙動を表現すべく大幅なカスタマイズが施された。「かなり重いリグになってしまったのでセカンダリ工程ではアニメーターたちのリクエストに応じて、その都度調整しました」(田島氏)



  • 本番アニメーションの作業例。体中にある目や舌の動きについては汎用モーションを作成しておき、それらをベースにショットごとに加工調整することで効率化が図られた

怪物の完成モデル


渡部辰宏氏(フリーランス)が開発したカスタムツールの例



  • 「RenderLayerManager」。各レンダーレイヤーごとの設定を簡単に行える。Mayaのシーンは複雑になるとオーバーライドしている項目がわかりづらくなりがちだが、このツールを用いれば何をオー バーライドしているかすぐに確認できる



  • 「Scene Assembled Tool」。レンダーセッティング、AOVなどの設定を自動で行うためのもの。作業者による設定のバラつきを防ぎつつ、作業手順の効率化にもつながったという


NHKの日髙公平氏がリードした、ヒロインの朱音(内田有紀)たちが暮らす名賀村シーンのロケ地となったスタジオセディック庄内オープンセットのリアリティキャプチャ作業例


元データとなるドローン空撮を担当したシーズプロジェクト向けに用意した、撮影方法に関する提案書。図解を基にわかりやすくまとめてある



  • ContexCaptureによるフォトグラメトリー作業



  • 出来上がったロケ地の3Dモデルの例。怪物やデジタルダブル等の影を落とす、地面の接地を伴うアニメーションやエフェクト表現のためには綺麗なジオメトリを用意する必要はあるが、アタリとしては重宝したそうだ


序盤に描かれる、怪物が砦を襲撃するシーンより。櫓に立つ絵師・菊地圓秀(柳沢慎吾)からトラックバックすると怪物と対峙していたというカットだが、スペースが限られたスタジオセットのため、事前に入念なプリビズを行い、カメラ位置や動きが決められた


収録現場のスナップ写真(演者からの見た目)


プリビズ作業の例


完成映像


序盤の砦シーンより。奧から天井が崩落していくのだが、手前の牢屋3つ分を奥にもエクステンションする必要があった。そこで手前用の牢屋セットをCGに起こして配置、ライティング&レンダリング。手前の実写プレートと奥のエクステンションCGの境界はペイントオーバーで馴染ませつつ、エクステンション部分はマット画をパースマップし、Houdiniによる破壊シミュレーションが施された


エクステンション用3Dモデル


Houdiniによるシミュレーション作業例


完成CG


朱音たちが暮らす名賀村を怪物が襲うシーンより。怪物が初めて全貌を現すカットである


NUKEXによる実写プレートのマッチムーブ作業。ショットの特性に応じてPFTrack等も併用したという



  • Mayaにトラッキングしたカメラデータを読み込んだ状態



  • HDRIによるイメージベースト・ライティング


一連のコンポジット処理を施した完成形


名賀村シーンの収録では不測の事態にも直面したという。「ロケハン時は植えてある麦の芽が土から少し出ているだけだったのですが、本番撮影を行う段になると予想よりだいぶ長くなっていたのです(苦笑)」(松永氏)。大きく映る草木と怪物のインタラクションについては、専用のオブジェクトを作成したそうだが、本ショット等の麦の動きはXGenジオメトリインスタンサをnHairシステムを利用したDyamicsに連動させることで効率化が図られた。具体的には、①XGenで長さ、太さや曲がり具合などを調節した麦を用意、②ModifierのAnimWireで、生やしたXGenに沿ったHairCurveを作成し、HairSystemを構築。XGenにアタッチさせる、③怪物の体をPassive Colliderにし、HairCurveとインタラクションさせ、XGenをレンダリング、というながれで作成された



  • 実写プレート。麦が生い茂っている



  • MayaのHairシステム



  • XGenで麦を作成



  • 怪物を合成



  • 落ち影と麦マスクを適用



  • 一連のコンポジット処理を施した完成形

村人が放った矢が怪物の目に射さるが、目玉が抜け落ちその奧から新しい目が生え出てくるというカット。かなりのクローズショットのため、ノーマルマップを調整してディテールを高めたという。目が落ちる際に、体液と視神経のようなものが流出する表現についてはHoudiniのSandシミュレーションが用いられた

村人の発砲が怪物の心臓部位に着弾するエフェクトカット。コンセプトアニメーションも作成された劇中における重要な表現だが、HoudiniのFLIPシミュレーションによって血飛沫が作成された

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03 妙高寺の決戦~スタジオ撮影~

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