03 撮影現場の3DCGセット化&エフェクトワーク
最後まであきらめない、考え続けることの大切さ
玄宗皇帝が催す「極楽の宴」のシーンでは、様々な幻術が描かれる。その舞台となる「花萼楼(かがくろう)」の巨大な美術セットが建てられ、それに基づくグリーンバックステージが用意されたが、奇抜な幻術をダイナミックに描く上では、エフェクトだけでなく、背景と画面奥の観客たちは全て3DCGに置き換えられた。「フルCGならではのカメラワークなど、自由に遊べた部分が多く、最終的な仕上がりとしても良い結果が得られたと思います」と、本シーンを担当した佐藤信吾CGスーパーバイザー。花萼楼を3DCGで再現するにあたっては、実際の美術セットをレーザースキャンで計測するというリアリティキャプチャが用いられた。様々な幻術エフェクトを描く上では、セット全体だけでなく、ポイントとなるセット内の造形も個別にスキャニング。踊り子や宴の招待客たちのデジタルダブルも作成された。妖猫以外の3DCGは、V-Rayでレンダリングしたそうだが、本シーンはCG要素が特に多くなったため、重いショットでは1フレームのレンダリングに40~50分要したそうだ。「突然現れた水面に視点が沈み込む表現があるのですが、水面をフルCGで作成すると役者との整合性やレンダリングコストなど、どうしても難易度が高くなってしまうため、自分たちで4Kカメラで撮影した実写素材を活用しました。最終的に良い画になれば手段は問われなかったので、3DCGと実写などの2Dを臨機応変に使い分けることでクオリティを最大限高めることを心がけました」(佐藤氏)。
VFXの納品は2017年10月中旬。その後、オンライン編集とグレーディング、音響効果が施され2017年12月に完成となった。余談だが、エンドロールに、Digital Domain Chinaもクレジットされているが、同社が担当したのはオンライン編集やグレーディングとのこと。先述のとおり、VFX制作は全てOJを中心とする日本勢が担当している。「長安のオープンセットはその象徴ですが、中国のスケールの大きさを様々なかたちで実感しました。そして、決して妥協をしない監督の姿勢からは、クリエイティブにこだわることの大切さを改めて学ぶことができました。日本のCGはハリウッドに比べると低予算で、制作スケジュールもタイトだから、どうしても見劣りがすると言われがちですが、環境さえ整えることができれば日本でも負けないものがつくれるはずという自信をもてたことも大きいですね。今回の経験を活かしてリアルな動物表現にも積極的にチャレンジしていきたいです」(青山氏)。
長安オープンセットの敷地内に建てられた「花萼楼」美術セット
「極楽の宴」に登場する踊り子たちはグリーンバック撮影も行われたが、実際には演技が不可能なショットもあったため、デジタルダブルも作成
観客モブのデジタルダブルとレイアウト例。モブキャラは色ちがいなど約20種類のバリエーションが用意された
「極楽の宴」シーンのビジュアルデベロップメント例。本作では、高橋美穂子氏を中心としたOJのマットペイントチームが一連のアートとマット画を手がけている
ワインの池から魚が飛び出すという幻術の表現において、中国側から提供されたのが灯篭の魚の絵だったので、OJ側からCGキャラクターとしてのデザイン提案が行われた
【画像左上】をベースに作成した完成モデル
花萼楼の中央に配されたワインの池から少女が起き上がるカットより
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水面や飛沫の形状はHoudiniで作成され、Maya上で背景セットと統合された
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少女の実写プレート。起き上がりの演技はワイヤーで引き上げて撮影
カメラ位置によってライティングが大きく変化するトラベリングショットではArnoldのオブジェクトライトが活用され た
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B地点のHDRIのみを使用したライティング
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A地点とB地点のHDRIから生成したObjectLightを使用したライティング。「オブジェクトライトを用いることで、HDRIのみを使用した場合に起こる『1点からのライティング』ではなく、対象オブジェクトの位置が移動するのに応じてライティングが変わる、実写プレートにより忠実なライティングを再現することができました。ただし、レンダリング負荷がかなり重くなってしまうので、実際にはObjectLightとHDRIを併用したハイブリッドなライティングを採用しています」(青山氏)