>   >  VFXアナトミー:躍動感あふれるダンスモーションと一体化する流体表現、アクエリアス 1日分のマルチビタミンTVCM『ヒトは失う』篇
躍動感あふれるダンスモーションと一体化する流体表現、アクエリアス 1日分のマルチビタミンTVCM『ヒトは失う』篇

躍動感あふれるダンスモーションと一体化する流体表現、アクエリアス 1日分のマルチビタミンTVCM『ヒトは失う』篇

03 コンポジットワークほか

演者の動きをフレーム単位でトラッキングする

先述のとおり、手持ちカメラによる自由なカメラワークによって撮影された本作。これらのマッチムーブ作業は、boujouPFTrackで行われた。特筆すべきなのが、通常のカメラトラッキングに加えて、演者というオブジェクトのトラッキングのために、ターゲットとなるCGキャラクターモデルを用意し、リギングとスキニングを施したもの用意。それを使って、演者の動きをトレースしていったという。「頭身高めのキャラクターモデルを用意していたのですが、演者さんのプロポーションの方が高く(手足が長く)て驚きました。まずは撮影場所となった部屋を3Dで再現したものを使ってカメラトラッキング。その上で演者さんの動きをトラッキングしていきました。最終的には1フレームずつ手付けで調整しています。演者さんの身体から水分や栄養素が放出されていく表現を描く上では基準となる身体のポジションがズレてしまうと一気にリアリティが損なわれてしまうので苦労しましたが、1日1カットのペースで作業を終えることができました」とは、一連のマッチムーブ作業をリードした加藤美智子氏。

3DCGのレンダラはV-Ray for Mayaを使用(環境はカメラトラッキング用に作成した背景セットから作成したHDRIを使用)。シミュレーションに加えて、レンダリングも相応に高負荷になったはずだが、約30台で構成されたレンダーサーバを利用しつつ、各アーティストは3カットほどの作業を同時並行で行うことで、無駄な待ち時間を生じさせることなく制作を進められたそうだ。なお、物理シミュレーションについては、GeForce GTX 10シリーズを搭載したマシンを別途用意。そこへHoudini ENGINEを介してジョブを投げるというデータフローを構築していたとのこと。コンポジットワークにはNUKEを使用。本作のようにノードツリー等のデータ構造が共通していたプロジェクトにとっては好相性だったそうだ。

カメラトラッキングの作業例。カメラワークに対するマッチムーブが合っていないと自ずとオブジェクトがずれていくため、撮影セットの図面や実際に採寸したデータから背景セットを簡易的にモデリングし、正しい空間になるようにトラッキングの精度が高められた。「寸法の合ったシーンモデルを作成したことでカットによってはオブジェクトトラッキングの要領でカメラを作成したものもあります。ですが、かなり自由なカメラワークのため、ボケなどでトラッキングツールが解析できなかった箇所は手付けで追い込みました」(加藤氏)。左図は、結果をわかりやすくするために3Dモデルのみの表示にした状態でロケーターと3Dモデルの位置情報を照らし合わせながらトラッキング作業を行なった例


演者に対するオブジェクトトラッキングの作業例。カメラ前を横切る腕など、どうしてもレンズディストーションが強く出てしまう箇所はボーンにスケール値を入れたり、ポイントアニメーションでフォロー。通常、この手法では皮膚が滑って見えてしまうが、今回はHoudini上で人物のシルエットを抜くセットアップを事前に構築することで、その問題を回避した。「当初は、演者さんの様々な動きに対応できるようにとリグを組んでいたのですが、動きがかなり自由だったため、カットによってはリグのコントローラが邪魔をしてしまい、カクつく原因になってしまっため、途中からシンプルなリグに組み直しました。また、実写撮影時にはメインのカメラとは別アングルでもリファンレンス動画を撮影をしておくことで、わかりにくい動きはそこから割り出すようにもしました」(加藤氏)



  • 演者の身体に合わせてリギング



  • 流体シミュレーション向けにカットのイン点よりも前フレームにおける予備動作部分も動きをつくっておく必要もあった

演者の動きに合わせてトラッキング作業を行う。腕や足など水が発生する箇所は特に精度が求められたという


山下照雄氏が作成した商品の3DCGモデル



  • クライアントから提供されたCADデータをベースに作成



  • V-Rayのビューポートレンダラで質感を調整


ディスプレイカットの下画は、2カットで構成されている。「そこに存在するような自然な見た目であるのと同時に、商品自体を美しく見せることが求められました。背景とのコンセンサスが不可欠ですが、1カット目と2カット目で背景(環境)が大きく変化するため、商品自体のライティングまで大きく変化してしまうと観る人に違和感を与えてしまいます。そこで1カット目はフレーム内に光源が感じられなかったため、商品もハイライトを感じにくくしておき、2カット目に切り替わる(上手に光源が入る)タイミングで自然に商品にハイライトが入るように仕上げることで下画とのコンセンサスをとりつつ、違和感が出ないように配慮しました」(原 恭平氏)


NUKEによるコンポジット作業の例。薄い水の質感を目立たせるために、屈折率が異なる水素材をNUKE上で合成。さらに栄養素の表現をNUKE上で作成し、屈折レイヤーに明滅レイヤーと色味レイヤーを掛け合わせ、NUKE上で細かな調整が行えるように設定された

下図はブレイクダウン



  • ベースの水の屈折を合成



  • 屈折率の異なる流体表現を一部に合成



  • 演者よりも奧にある流体とビタミン表現を合成



  • 演者よりも手前にある水滴とビタミン表現を合成

一連のコンポジット処理が施された完成形



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