>   >  VFXアナトミー:ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

<2>ほぼフルCGで構成されたクライマックス
~ショットワーク~

CM制作の知見を活かして大規模VFXワークを完遂

ワークフローとパイプラインを取りまとめたのはMARKとは深く親交のあるフリーランスで活躍中の山岸辰哉CGディレクター。データフローとしては、外部パートナーから届いたレンダリングデータ(レンダーパスも含めて指示も出している)を、仮組みしてコンポジターに渡すというながれ。ワークフローとしてはSlackで連絡をとりながら、Googleのスプレッドシートで作業状況を管理。パイプラインとしてはShotgun、Python(山岸氏の自作ツール)を使用して円滑に作業が進むよう配慮された。データはFTPにアップして各社フォルダ構造を同じ(相対パス)にしたアセットライブラリをミラーリング。どこで作業しても同じになるようにして外部スタッフとも円滑にやりとりをしていたようだ。

クライマックスシーンのチェックはレンダリングしてみないと判断しづらい部分も多く、難しいところだろう。それについて二瀬氏は次のように語る。「ほぼフルCGということで途中から仮の状態でチェックしてても判断できないため、動きはこちらで納得のいく段階でFIXさせて本番のレンダリングに入る決断をプロデューサー陣と相談して決めました。動きに関してはもしかしたら監督はまだやりたいと思っていたかもしれないですが、どこかで決めないと終わらないので今回は時間との相談でそういうやり方にさせてもらいました。もちろんわれわれとしてはベストを尽くしたので、限られた時間の中でクオリティの高いものを創り出せたと自負しています」。

エンバイロンメントの本番レンダリングは、約30ショット分に2日ほど要していたという。どちらかというと複雑な蠢く動き(毛も含む)をしているシミュレーションのキャッシュを取るのに時間がかかったことに加え、NUKEのレンダリングに時間を要したそうだ。
「長久監督は若くて非常に才能のある方なので、求められる表現は自ずと難易度が高くなりますが、終始楽しみながら制作することができました。ワークフローとしては特別なことはしていませんが、大規模になったのでデータと情報を効率良く管理することには気を遣いました。実は制作中にパイプラインのバージョンが5から7にまで更新されたのですが、そうした意味でも良い経験になりましたね」(山岸氏)。

クライマックスシーンのパイプライン( データフロー)とワークフローを図示したもの。山岸氏が中心となり、全アセットを管理するかたちが採られた

山岸が数年前から独自に開発、運用を続けている自作ツール「tyPipelineManger」UI。左図はWindows OS。エクスポートを行うためのしくみとして開発されたものであり、Pythonで実装。Pythonと同じフィールドをもつCSVデータを用いてShotgunと参加プロダクションのローカル環境を連携させたという。「OS(Windows)で開発しているため、Python+PySideに対応しているツールであれば、各ツールのイン/エクスポート部分を実装することで、そのまま各ツール上で使用できます」(山岸氏)。本プロジェクトのDCCツールではMaya、3ds Max、NUKE上で用いられた

主人公たちが運転するゴミ収集車

<A>完成モデル(左)とリファレンス(右)。現実の車輌のフォトグラメトリーから作成された

  • <B>3ds Maxのビューポート表示


ゴミ収集車(最終形態)

  • <A>最終形態のCGモデル。ゴミ収集車はシーンの途中から胎児をモチーフとした丸みを帯びた有機的かつ生物的な形状へと変形していく
  • <B>3ds Maxのビューポート表示


クライマックスシーンのエンバイロンメント制作

トランジスタ・スタジオが担当したクライマックスシーンのエンバイロンメント制作を図示したもの。エンバイロンメントといっても、構成するオブジェクトが生物的なアニメーションを常時しているため、複雑なセットアップが必須だったはずだ。

  • <A>各球体が全て互いに離れている状態からClothシミュレーションを通して引き合うことによって、互いに重なり合うことがいっさいないままウネウネとした動きを続けられるように仕込まれている
  • <B>3ds Maxのビューポート表示

  • <C>球体の表面から生えている触毛はポイントごとのアトリビュート値を緻密に設定した曲線をWireシミュレーションにより制御することで、液体内を漂う柔らかな動きを実現
  • <D>浮遊物の質感はプロシージャルなVEXシェーダを定義しておくことで、ランダムなパラメータ値のノイズが各々に割り振られて多種多様な形状のものを大量に出力している


クライマックスシーンのライティング作業

クライマックスシーンのライティングは3ds MaxとNUKEで施された。3ds Maxでレンダリングした素材をNUKEに読み込んで確認&調整。NUKEで調整した作業については、3ds Maxへ適宜フィードバック。レンダリングイメージ(マルチレイヤーのOpenEXRファイル)の確認にはRVも併用したという。

  • <A>3ds Maxによるライティング作業例。ライティングAOVsの設定と、AOV追加用のMAXScriptを表示したもの
  • <B>NUKEによるライティング作業例。OCIO(OpenColorIO)でプロジェクト専用のカラーパイプラインを構築しており、V-Ray frame bufferとNUKE、RV等で同じビューイングを共有している

<C>RV上での表示

<D>NUKE上での表示については、確認したい要素に応じてトーンマッピングのON/OFFが切り替え可能になっている

クライマックスシーン|マスターショットの制作過程

  • <A>クライマックスシーンの指針となったCUT 9の作業変遷。バージョン0
  • <B>レイアウト&アニメーション作業途中の状態

  • <C>3DCG作業途中の状態。この段階でルックはモノクロに仕上げることが決まった
  • <D>最終コンポジット


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<3>精巧なインビジブルエフェクト

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