>   >  VFXアナトミー:ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』
ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

ファンタジックなCGアニメーションと職人気質あふれるインビジブルエフェクト〜映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』

<3>精巧なインビジブルエフェクト

職人のこだわりが光るいぶし銀のVFXワーク

 最後にMARKを強力にサポートしたCanvasとlureが担当したVFXワークを紹介したい。

Canvasが担当したイシ(水野哲志)の生家である火災現場跡のシーンは、カメラがあまり動かないため実写プレートに対してマットペイントをカメラマップで対応。なお、MARKがリードしたVFX制作ではロゴスコープの亀村文彦氏が構築したOpenColorIO(OCIO)によるシーンリニアワークフロー(D65、BT.2020)が用いられたが、CanvasではAE版OCIOを利用したカラーマネジメントが行われた。中盤に登場するライブ演奏シーンは、役者たちをブルースクリーンで撮影したものに三面スクリーンを合成するかたちで制作された。手前の役者たちに対してスクリーン内に映る映像のサイズを調整したいという監督のリクエストに応えるべく、ベストのサイズやレイアウトを追求したそうだ。ビジュアル的なインパクトと見た目の美しさを重視しながら、各スクリーンの境目をわずかに歪ませるなど、細部にわたってつくり込まれている。
「今回は初めてAEでOCIOによるシーンリニアワークフローを行うという機会にめぐまれました。Logデータに対してマットを描くというのも新しい試みだったのですが良い勉強になりました。撮影中に仮で作成したマット画にOKが出ても、本番の実写プレートをマットペインターに渡して作業すると同じルックにはならなかったりと、慣れるまでは苦労もしたのですが、CM案件でもLogでやりとりすることが増えてきているので、今後も技術的に勉強していきたいです」(稲垣氏)。

OPに登場する虎のコマ撮りアニメーションスは、lureによってフルCGで作成されたものだ。
「長久監督が本濃研太さんのダンボール彫刻作品を気に入られたそうですが、実は本濃さんは私が通っていた専門学校の同級生なんです。偶然のことでしたが、本濃さんから実物をお借りできたので比較的スムーズに作業を進めることができました」と、lureの渡邉祐貴CGディレクター。
3ds MaxでモデリングしてV-Rayでレンダリング。最終的にはストップモーション風にコマ落ちさせて、顔も迫力を出すためにモーファーで大きくしたりと、細かい 工夫が施された。そして、列車の窓を流れ落ちる雨表現もlureが担当。3ds MaxのParticle Flow(PFlow)で作成した雨だれマップに手描きのマスクを加えエンボスで角度をずらしたRGBチャンネルを加算してディスプレイスメントマップを適用するという、以前に犬童氏が考案した手法が用いられた。大きく雨が流れる感じはPFlowのデータオペレータを使用して作成。とてもリアルに出来上がっており、実物と見分けがつかないほどである。
「普段はCMを中心に活動していますが、映画はしっかりとかたちに残せることも魅力なので機会があればぜひまた参加したいです」(渡邉氏)。

イシ生家の火災現場跡 by Canvas

Canvasがショットワークを手がけた、イシの生家の火災現場跡。焼け跡のマットペイントを3ds Maxでカメラマップして表現。マットはオーバースキャンしているので、ちょっとしたカメラの動きでも見切れない

  • ブレイクダウン。<A>実写プレート(Logの状態)
  • <B>カメラマップするためのマットペイント。オーバースキャンしてプレートをレタッチ

  • <C>3ds Maxから書き出したレンダリング素材をAE内でリニアライズした状態
  • <D>一連のコンポジットワークを施した完成形


スタジオライブの背景スクリーン by Canvas

  • <Before>
  • <After>

中盤に描かれる、レコードデビューを果たした主人公たちのバンド"LITTLE OMEBIES"が歌番組でスタジオライブを行うシーン。本文でもふれたとおり、背景を構成する3面スクリーンはCanvasによるVFXワークで表現された。上図は、スクリーンが接するコーナーエッジの馴染ませ処理の例。子供時代のタケムラ(奥村門土)が着る赤いシャツの胸元がわかりやすい。わずかに歪み処理を加えることで、スクリーンに投影したかのようなリアリティに高められた

  • ブレイクダウン。<A>3ds Maxからレンダリングした素材 D 漂うホコリ素材/ E 一連 のコンポジットワークを施し た完成形
  • <B>スクリーンをカラコレした状態。側面を暗く落としたり、青みを入れたほか、各面に干渉するように映り込みも加えられた

  • ブレイクダウン。<C>フロント素材
  • <D>漂うホコリ素材

<E>一連のコンポジットワークを施した完成形



段ボール彫刻を3DCGで忠実に再現 by lure

OPに登場する本濃研太氏のダンボール彫刻作品「虎」を忠実に再現したCGアニメーションは、lureが担当した。

  • <A>実物のリファンレス写真
  • <B>完成した3DCGモデル

  • <C>アニメーション作業。単にコマ落ちしただけではない手作業によるストップモーション感を出すために、要所にBipedのコントローラをリスト化し回転にノイズコントローラを適用。ランダムに動きすぎる箇所を調整するためにノイズのないテイクもレンダリングされた
  • <D>レンダーパス。レンダラはV-Rayを使い、基本的なDiffuseMap、NormalMap、 ReflectionMapで構成

  • <E>AEによるコンポジット作業。アナログ感を出すために加えた関節の回転ノイズありテイクと、手を加えていない綺麗なテイクの調度良いタイミングを探るために要所でテイクを切り替えている。それと同時にコマ落ちも均等ではなく、バラバラに調整している
  • <F>最前面に帯素材を合成させて完成となる。基本的なレベル調整とDepthで馴染みを追加。ストップモーションらしさを表現するため、モーションブラーはあえて加えていない


車窓を流れ落ちる雨 by lure

クライマックス前に描かれる列車内のシーン。窓を流れる雨水が印象的な情感あふれるシーンだが、この雨表現は、MARKの犬童氏が考案した3ds MaxのParticle Flow(PFlow)をベースにした手法を用いて渡邉氏が制作したインビジブルエフェクトだ。

<A>まずはPFlowでパーティクルを生成する。データオペレータでX/Y軸、スケールにランダムな挙動を加えつつ、windフォースで大きな方向性を出す。動きに合わせて雨だれが流れるようにSpawn。時間に応じてスポーンしたパーティクルを縮小すれば水が流れるようなイメージになる

<B>PFlowで作成した雨だれマップに手描きのマスクを加え、エンボスで角度をずらした赤チャンネル緑チャンネルを加算してディスプレイスメントマップを作成する

<C>角度をずらした赤+緑チャンネル

<D><B><C>を実写プレートに合成した結果

  • <E>別カットの実写プレート
  • <F><E>に雨エフェクトを合成した完成形


info.

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