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フィルム時代のサイケデリックなホラー表現が進化! 映画『地獄少女』

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02 閻魔あい&三藁のVFXワーク

フレーム単位でブラッシュアップを重ねる

閻魔あい(玉城ティナ)が対象者を地獄に送る際に放たれる"花曼荼羅"エフェクト。こちらの制作をリードした笹倉氏は次のように語る。「白石監督からは、花が幾何学模様のように並びつつも生物特有の不揃いな不気味さもあるという、カオスな表現にしてほしいとリクエストされました。具体的な指針として、エルンスト・ヘッケルというドイツの生物学者が描いた生物画を提示されたので、そちらを参考にしつつ、あいの着物の花柄や、アニメで出てくる花柄なども加味しながらデザインを詰めていきました」。制作手順としては、まずその場で回転している花の素材を作成してV-Rayでレンダリング。その連番素材をAfterEffectsに読み込み、カメラ手前に迫ってくる動きや回転はAEのキーアニメーションで仕上げているとのこと。劇中でも要となるVFXということもあり、かなり多くのリテイクを重ねる必要があったため、できるだけ3DCG工程に戻らずにAE上で調整できるようにセットアップしたという。

地獄少女との契約成立を意味する、依頼人があいから渡された人形に結ばれた紅い紐を解くと人形が宙に浮かびバーツが分解しながら渦巻いて消失するというエフェクト。この表現も笹倉氏が中心となり制作された。「撮影時の小道具として作成された人形をリファレンスとしてモデリングしました。人形のモデルは約100パーツで構成されているのですが、分解するタイミングや各パーツを意図した動きに仕上げるためにキーフレームでアニメーションさせています。バラバラと解けるアニメーションは、あえて手付けにしています。その後の宙に浮き上がりながら、円状に渦巻くように消えていく表現については、紅い紐のNURBSカーブにリグを仕込んで動きを付けた上でnHairのダイナミックカーブを追従させることで物理的なゆらぎを加えました」。さらに質感については、監督から気色悪く黒光りさせてほしいとのリクエストを受けて、リアルな木の質感から黒光りしたミミズの質感へと変化させている。この表現については、2種類の質感でレンダリングした素材をAE上でOLさせているとのこと。こうしたエピソードから、白石監督の妥協ない画づくりに対してVFXチームがしっかりと応えたことが伝わってきた。

あいの花曼荼羅エフェクト。監督から提示されたエルンスト・ヘッケルが描いたイラストを参考に画づくりが行われた



  • 花曼荼羅のパーツモデル(レンダリングイメージ)。花の種類は、1.役者が着ている着物の柄、2.仏花、3.アニメ原作に登場する花から選ばれた



  • 花素材のカメラビュー(メッシュ表示)



  • 【花素材のカメラビュー】のパースビュー



  • 花吹雪素材のカメラビュー(シェーディング表示)



  • 【花吹雪素材のカメラビュー】のnParticleのセットアップ



  • AEの3Dレイヤーを使用した花曼荼羅のレイアウト


作業の変遷を図示したもの



  • 初期バージョン。白石監督からのリテイク指示は次の通り。1.ツタは目立たせず、花を中心に、2.空きスペースを活かしたレイアウトに、3.背景のもやは具体的な形でなく、暗い靄のようなもので、4.花の色は、白、黄色、ピンクはかわいらしさが出てしまうため極力使用しない、5.全体的にファンシーさやかわいらしさの要素はいっさい出さない



  • 途中段階(1)。デザインとしてはFIXしたが、色合いが鮮やかで明るいものが含まれているため、花の色は、白系は外して代わりに、黒、青、紫、暗い赤などを使いダーク感を高めることに



  • 途中段階(2)。ダーク感は高まったが、赤いバックグローは特撮っぽく見えるためなくしつつ、空スペースに花をさらに追加することに



  • 最終形。ダークな印象がさらに高められた


早苗の人形3DCGモデル



  • 笹倉氏が作成したモデリング指示書(抜粋)。人形の小道具をリファレンスとして、構成パーツを、枝、藁、つるの3つに分類。それぞれを3〜4バリエーションずつ作成して人形の形に組み上げる方法が採られた



  • 人形モデルのルックデヴ。「ターンテーブルはレンダリング不具合の確認用として使用しました。CGの人形が登場するカットは限られたので、実際のシーンに配置した状態でルックを詰めていきました」(笹倉氏)

人形モデルのルックデヴ。「ターンテーブルはレンダリング不具合の確認用として使用しました。CGの人形が登場するカットは限られたので、実際のシーンに配置した状態でルックを詰めていきました」(笹倉氏)


人形のCGアニメーション作業を図示したもの



  • カメラビュー(メッシュ表示)。個々のパーツごとに意図した動きを付けるために、キーフレームで細かく調整された。「パーツはいくつかのグループに分かれており、グループごとにおおまかな動きを付けた上で、個々のパーツの動きを詰めていきました」(笹倉氏)。赤い紐については、NURBSカーブにリグを仕込んで動きを設定しておき、これに対してnHairのダイナミックカーブを追従させている(ダイナミックカーブには紐のジオメトリをバインドしたIKチェーンが仕込んである)。これにより、意図した動きと物理的なゆらぎを融合させることに成功した



  • 3Dレイアウト(サイドビュー)。環境光としてHDRIを適用したドームライト、演出ライトとしてエリアライトを配置



  • アニメーションFIX



  • 最終形。監督チェックでは、動きについては一発OKだったという


冒頭シーンに登場するカラスの群れが飛んでいくカットのブレイクダウン



  • レンズフィルタのガイド。このシーンはディフュージョンフィルタを用いた撮影が行われたが、合成カットについてはポスト処理でルックを再現している



  • フィルタを外した、実写プレート



  • グレーディング済みのプレート。監督のイメージするファイナルルックが極端な色味だったため、意図する色見にグレーディングした上でVFX作業が進められた



  • カラスのアニメーション作業。VRayProxy化されたモデルを利用

夕焼け空を合成した最終形。「夕焼け空の実写素材を単純に合成しただけではのっぺりした印象だったので、雲のディテールを足しています」(村上氏)


身体から離れていた一目連(楽駆)の右目が戻ってくるシーンより



  • 3Dマッチムーブされた3Dレイアウト、セットアップ。横にドリーしているカメラワークだっため、下画をスタビライズした上で、一目連の顔面を3Dマッチムーブしている(PFTrackを使用)



  • 眼球が戻る顔面の変形を表現するために、MayaのTexture Refelence Object機能を使い、元モデルに顔の連番をカメラマップ。さらにスカルプトデフォーマーをパスアニメーションさせて、眼球による盛り上がりと移動を表現



  • 合成用カラー素材



  • 合成用陰影(シェード)素材。グレーのランバートシェーダをアサインし、意図する陰影が得られるライト設定が行われた

眼球のアニメーションに合わせて皮膚が盛り上がる表現用のマスク素材

一連のコンポジットワークが施された最終形

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03 地獄シーンのVFXワーク

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