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フィルム時代のサイケデリックなホラー表現が進化! 映画『地獄少女』

フィルム時代のサイケデリックなホラー表現が進化! 映画『地獄少女』

03 地獄シーンのVFXワーク

直接的なグロテスクではなく生理的な不気味さの追求

地獄のビジュアルの指針となったのが、Googleが開発した人工知能「DeepDream」のデモ動画『Deep Dreaming Fear & Loathing in Las Vegas : the Great San Francisco Acid Wave』(2015)。これに近いルックを実現すべ く、スタジオ・バックホーンがたどり着いたのが、AEプラグイン「Transfusion Style Transfer」を用いることであった。「画面全体に対して、スタイルが適用されてしまうなど、細かな調整はできないため、Transufusionをかけたコンポジットを素材の1つとして、元のコンポジットに改めて合成するといった具合に細々と調整する必要がありました。ですが、監督が求めた不気味な印象を高める上では有効でした。これまでホラー表現では、肉体破壊や血飛沫など直接的なグロテスクな描写をつくってきたのですが、本作では、生理的な不気味さをビジュアルで表現するということにチャレンジする機会に恵まれました。こうした表現にも機会をみつけて取り組んでいきたいです」と、Transufusionによる画づくりをリードした山上弘了チーフデジタルアーティストはふり返る。

劇中には、様々な地獄が登場する。インディーズアイドルの早苗を襲ったことから地獄に送られる長岡卓郎(森 優作)は、三藁のひとり一目連に斬首され、切られた首はサイケデリックな渦状の奈落へと落ちていく。「白石監督の過去作品に着想を得て、ゴカイの実写素材をスフィアに貼ったものを筒状に配置することで不気味なトンネルをつくりました。サイケデリックな色味に仕上げるために、カラコレ用のマスク数種類とフラクタル素材をコンポジットで組み合わせています。また、テイクを重ねていく過程で監督から水中感を出してほしいとのリクエストを受けたので、実写の波紋素材やParticularで作成したマリンスノーを隠し味的に加えました」(村上氏)。このように実写が得意とするもの、CGが得意とするものを適確に組み合わせることが本作のVFXでは徹底されている。「撮影部や造形部と連携することで改善できる余地がまだ多くあると思います。今後もCG・VFXの枠内に収まらずに様々な分野の方々と良好な関係を育みながらより良い表現を追求していきたいと思います」と、村上氏は総括してくれた。

ある出来事から、地獄に送られる長岡のシーン、通称「生首地獄」より。一目連に斬首された長岡の頭部が画面奥の奈落へと落ちていくカットの各種素材



  • 実写撮影の様子。1ページ目で解説したプリビズに基づく手法で撮影されたことがわかる



  • Maya上の3Dレイアウト。変形させたスフィアに、蠢くゴカイの連番素材をマッピング。さらに、個々のフィアを回転、移動させたものを筒状に配置することで、おどろおどろしい地獄の世界を表現



  • 合成用カラー素材



  • 合成用サイケデリック素材。地獄のビジュアルコンセプトである極彩色やサイケデリック感を高めるための素材である



  • 合成用デプス素材



  • カラコレ用マスク素材。ムラを表現するためにチャンネルごとに分離されている


長岡の頭部が画面奥へと落ちていくカットの作業変遷



  • 初期バージョン。おまかせ状態で試作したものだというが、世界観は監督OKとなったものの全体的にカラフルである



  • 中期バージョン。ダークな印象に調整。グリーン系の色は使いたくないという監督のリクエストを受けて修正することに

最終形。不要な色を省き、ダークで異質な印象にブラッシュアップされた。水中感を出すためにマリンスノー素材なども追加された


本作の主人公・市川美保(森 七菜)が閻魔あいと契約する前に地獄を体験するシーン、通称「針山地獄」より



  • Mayaでの広大な針山地獄のレイアウト。針山には、地獄にマッチするトゲトゲしい岩のテクスチャをマッピング



  • 針モデル。パーティクルインスタンサーで配置するための元オブジェクト

針を生やした3Dレイアウト


本シーンで最もロングショットのブレイクダウン



  • 一連の素材を合成した状態。ここからさらに「地獄処理」と呼ばれた、異質な世界観を表現するためのフィルタ処理を施す



  • 【左画像】に対してAEプラグイン「Transfusion - Style Transfer」の「PostImpressionism3_v2」というスタイルを適用した地獄処理の素材



  • 【左上】と【右上】を合成した上で、さらに極彩色を高めるカラコレ、ビネットなどを施したコンポジットとしての完成形



  • グレーディング処理が施された最終形。ダークな印象が強調されたことがわかる


地獄の狭間に置かれた魔鬼(藤田 富)の前に亡者の群れが現れるカット(クライマックスシーンより)

亡者の実写素材。撮影前に考案した全身黒タイツを着たエキストラ約10名をグリーンバックで撮影。衣装部のアイデアで身体の一部に膨らみをつくることで不気味さが高められた

AEの3Dレイヤーに配置された亡者モブ(約100体)


ブレイクダウン



  • 亡者モブ(エフェクト処理前)



  • 【左画像】に人魂のようなゆらめき処理を施した状態



  • 実写プレートと合成



  • フレアとサイケデリックな色合いのフォグを合成した後、手前の魔鬼にマスク処理を施した最終形


本作のエンドロールも昭和の日本映画的なテイストに仕上がっている。実は、このエンドクレジットはスタジオ・バックホーン代表の鹿角 剛氏が手がけたもの。「昭和テイストを出そうと古い明朝体の縦書きにすることにしました。当時の映画クレジットは手書きが主流だったこともあり、なかなかイメージに合致したフォントが見つからず苦労しました」(鹿角氏)。そうしたなか見つけ出したのが、米桂が開発した並木極太明朝体。ただし、フォントとして発売されているものではなかったが交渉の結果、必要な文字をPDFデータとして特別に提供してもらえたそうだ

米桂から提供された文字素材

鹿角氏がレイアウトしたエンドクレジット



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