>   >  VFXアナトミー:豊富なリファンレスと最新のAIテクノロジーを活用したデジタルヒューマン、NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』
豊富なリファンレスと最新のAIテクノロジーを活用したデジタルヒューマン、NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』

豊富なリファンレスと最新のAIテクノロジーを活用したデジタルヒューマン、NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』

<2>リグ&シミュレーション

あらゆる意味で"特別仕様"

番組内でも紹介されたとおり、衣装は晩年の衣装を全て担当したファッションデザイナー・森 英恵氏が新たにデザイン。ヘアメイクも25年にわたって担当した美容師・白石文江氏が新曲のイメージに合わせた髪型を、背格好が近いモデルに施した。
「制作途中のフィッティングやヘアメイクの現場を見学させていただきました。衣装はMarvelous Designer、髪の毛はXGenで作成しています」(松本氏)。

髪の毛の本数は、5万本。シミュレーションを必要としなかったため、見た目優先で10パーツほどに分けてつくり込んだという。衣装のデザインを森氏に依頼したのが今年4月だったこともあり、衣装が完成したのは7月22日だったという。
「そこで実際の衣装制作と平行してモデル制作を進めていました。随時デザインが改良されていくため、難しい部分もありましたが、最終的には上手く再現できたと思います。クロスシミュレーションについてもできるだけハイクオリティに仕上げようと、今回はMarvelous Designer(以下、MD)でフルシミュレーションしました。MayaからAlembic形式でボディデータを読み込みシミュレーションを行なったのですが、MDにバグがあるみたいで、1,000フレーム以上のキャッシュを保存することができませんでした。新曲は約5分で、ホログラム用の総尺は8,000フレーム以上に達したため、1,000単位で分割したり、あえてキャッシュをとらないことで対応しました」(岡田氏)。

そうした苦労の甲斐もあり、完成した映像は良質に仕上がっている。また、アップショットのシミュレーションでは近接点が近いと不自然なシワが入ってしまうという問題にも直面したため、こちらも表情と同じく必要に応じてMesh3DやMayaによるショットスカルプトを行なっているとのこと。

リグ&セットアップについて。身体自体は大きくは見えない衣装デザインのため、ボディは通常のセットアップで対応。逆にフェイシャルは細密にリギングされている。
「NHKさんからいただいたブレンドシェイプは約50パターンでしたが、基本的には口元の動きだけなので、目や鼻なども動かし、意図した表情がつくれるようにしていきました。最終的に158ターゲットに達しました」(岡田氏)。

さらに約100ものボーンを追加しているとのこと。また、フォトリアルな表現ではFACS(Facial Action Coding System)に基づくリギングが一般的だが、美空ひばり特有の表情や歌唱法を上手く表現できなかったという。そうした意味でも"特注のリグ"が組まれており、アニメーターフレンドリーとして定評あるMayaプラグイン「MG-Picker Studio」も併用したシステムが構築された。

XGen Interactive Groomでアップカット用にディテールを追加している様子。主にclump、noise、cutという3種類のモディファイアを組み合わせてベースを作成し、その後sculptモディファイアで毛1本単位での微調整が行われた


ヘアスタイルのリファンレス例。実際に三つ編みが編み込まれていく様子を撮影し、CGで再現された


MDによる衣装の作成例。実際のドレスの型紙は存在しなかったため、リファレンス用の写真を参考に再現された。スカート部分の花びらの枚数は、本物の衣装には約300枚用いられていたそうだが、シミュレーションを行うには処理負荷が重すぎたため、3分の1程度にまで減らして対応。また、スカートの花びらは、めり込みを回避するために下から順に縫い付けている


衣装のリファンレス例。森 英恵氏の事務所を訪問してドレスの調整を行なっている様子を見学、その際に撮影した写真や動画が活用された


MDによるクロスシミュレーション例

上半身

下半身(スカート)


フェイシャルリグ&セットアップ



  • メインリグ



  • 補助リグ

ブレンドシェイプのターゲット。細かな表情のニュアンスを再現する上では、最終的に158種類が作成された


ルックデヴ作業の例


制作後期におけるショットスカルプトの例。リグで作成したベースの表情に対して、フレーム単位で表情を造形している

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<3>ショットワーク

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