>   >  VFXアナトミー:"攻めの姿勢"で躍動感あふれる群衆表現を実現、映画『燃えよ剣』
"攻めの姿勢"で躍動感あふれる群衆表現を実現、映画『燃えよ剣』

"攻めの姿勢"で躍動感あふれる群衆表現を実現、映画『燃えよ剣』

02 鳥羽・伏見の戦いシーン

群衆の中にも確かな個性を込めていく

ここからは具体的なシーンメイキングとして、コラットがリードしたショットワークを紹介したい。まずは中盤の見どころ「鳥羽・伏見の戦い」シーンだ。先述の通り、2019年5月頃からコラットの作業が本格的に開始となり、アニメーションSVを務めた江本亘隆氏を筆頭とする5名ほどのチームでGolaem 7を使い群衆アニメーションをつくり上げていったという。Mayaでリグを組み、GolaemCharacterMakerというツールでJointをリターゲットして、用意をしておいたいた動きの素材を入れ込んで、さらにカットごとにブラッシュアップしていった。江本氏は次のようにふり返る。「ベースとなる動きは、CGCGスタジオさんに作成していただいたモーションキャプチャデータ約70種類を基に、そこからアレンジしてモーションパターンを増やしていきました。それでもモーションのバリエーションが足りず、Adobe MixamoからのモーションをベースにさらにMotionBuilderでモーションパターンを増やし、オダさんからリクエストされた複雑な演技に仕上げていきました。7にバー ジョンアップしたGolaemがとても優秀で、地面に沿って走らせるといった動きも手早く設定できたし、シミュレーションをかけた後でも様々な調整が利き、さらにノードベースになったことで効率良く動きを付けることができました。オダさんが求める群衆表現はパターン化されたモブではありません。兵士ひとりひとりがどのような思考の下で動くのか、そうした個性を込めることで全体としてのリアリティを高めていく必要がありました。そのため、Golaemという群衆シミュレーションツールを利用しているにもかかわらず、1体1体のキャラクターを個別に動きを付けるカットも多くありました(苦笑)」。

群衆の中でもリーダー的な存在のキャラが集団を引っ張り、それについていこうとする兵士、追い抜く兵士、中には死にたくないので遅れをとる兵士など、細かい部分のニュアンスまで考え抜かれ表現されている。もちろん撮影現場にもエキストラが動員されたが、エキストラに攻撃を受けて倒れるといった危険の伴う演技をさせることはできない。しかし、現実の戦闘描写には必須の演技である。そうしたエキストラでは不可能な動きもCGキャラクターアニメーションによって(必要であればイチから手付けで)動きが付けられていった。

実写撮影に用いられたカメラが3種類(ARRI ALEXA Mini、DJI Zenmuse、DJI Osmo)あり、それぞれで撮影解像度・コンポサイズ・CGレンダリングサイズ・納品サイズが異なっていたことから図式したもの。作業を進める際は、作業フレーム範囲等の全ての情報をShotgunで一元管理しておくことで、作業者は、ワンクリックで該当する設定がシーンファイルに反映されるため、ほぼ意識することなく画づくりに集中できたという


Golaem向けリグ調整例

Character Makerを使い、Golaemのリグにジョイントをアサイン

ジョイントのアサインが終わると、リグとフィジックスのバウンティングボックスが表示される


旧幕府軍の姿を側面から捉えたショット向け群衆シミュレーション。図は、Terrain(地形作成ツール)で坂から下ってくる兵士たちの走りを制御。旗の動きはクロスシミュレーションさせたジオメトリキャッシュをGolaemで群集にアサインしている


NUKEによるコンポジット作業例

地形に合わせた地面のモデルを作成し、Golaemの走る地面として適用したり、影素材を作成するために使用

レンダーエレメント。用意はされたが、結局使用しなかったものもあるという

Keyライト(図・左)と、Domeライト(図・右)を別エレメントで書き出すことで、コンポジットワークで色調整を柔軟に行えるように配慮

ライティングシーン作成のため作成された、ビルドツール。Golaemやその他アセットの読み込み、Crowdレイヤーごとのレンダーレイヤーの作成などをワンストップで行える。過去プロジェクトでは、Golaemのレイアウトシーンをライティングアーティストに受け渡していたそうだが、Golaemデータをエクスポートしてライティングシーンでリファレンスすることにより、Golaem Crowdに変更が発生しても、リファレンスの入れ替えで、 素早く再レンダリングすることが可能になった


リアリティを追求する上では、モブキャラを大胆にレイアウトすることも多いという。図はカメラ手前を走り抜けるアニメーションの例。奥への群衆の配置と共に、カメラ前に通過させることで奥行き感が演出された

カメラビュー

パースビュー。「足下の接地が見えないため、比較的自由に配置できます。ただし、地続き感がないとバレるので何をしてもいいというわけではないですが、カメラからの見え方ありきでスケールをかけたり、速度の調整をしています」(江本氏)

合成前

合成後(完成形)


ブレイクダウン



  • 実写プレート



  • 群衆CG向け影素材を合成



  • 最奧の群衆を追加



  • 中景の群衆を追加



  • 手前の群衆を追加



  • 一連のコンポジット処理が施された完成形

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03 五稜郭の戦いシーン

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