<3>ショットワーク~荒野&夜シーン~
画づくりのコンセプトは"動くグラフィック"
先述の通り、荒野シーンは実写撮影後に追加が決まった。そこで格内氏は、荒野のエンバイロンメントを3DCGでイチから作成するのは非現実的だと判断。VMTには昼と夜シーンのショットワークに専念してもらい、荒野シーンについては格内氏が自作した360度HDRIライブラリを用いたカメラマップで仕上げられた。「いわゆる絶景と呼ばれる自然景観については、日頃からHDRI写真を収集するようにしています。ただストックするだけでは使い勝手が悪いので、明るさや太陽などキーライトの光源の位置を合わせておき、360度パノラマの連番としてセットアップされたライブラリとしてまとめています。今回もこのライブラリを利用することで、荒野シーンを"コスパ良く"つくることができました」(格内氏)。なお、夜シーンで印象的なネオンサインのエフェクトは、VMTによってCinema 4D+Redshiftで作成されたものである。
格内氏によるフィニッシング作業(画づくり)のコンセプトは、"動くグラフィック"であった。「馴染ませない美学とでも言いますか、背景に対して人物の露出を意図的に1~2段階上げることで印象的なビジュアルになることを目指しました。ただし、フォーカスの調整や発光エフェクトを加える際はフィジカルベースの処理を施すことでリアルさとファンタスティックさを両立させるようにしました」(格内氏)。なお、VMTからパブリッシュされたプレートは、UE4の仕様との兼ね合いでコンポジットされた状態だったため、格内氏はAIによるマスク生成サービスを利用して、人物のマスクを作成。これにより"動くグラフィック"を実現させた。さらに、実写プレートが4Kサイズであることを活かした、200~300%までブローアップしたカットも多数登場するのだが、この超解像度処理にもAIサービスが利用された。「ここ数年は、仕事の2~3割はAIに助けられています。AIは人間から仕事を奪うものではなく、よりクリエイティブな作業に専念するためにも必要なものだと考えています。UE4によるリアルタイムCGやAIサービスの活用は、ハリウッドのような大規模制作が難しい日本ならではの強みを活かした映像制作を発展させる上でも有効だと思います」(格内氏)。
背景バリエーションの検証
Flameによる360度HDRIを使用した背景バリエーションの検証
▲HDRI写真はNuke SphericalTransformでHDRIから地面のみを分離して平面化した素材を地面に配置しつつ、同写真を半球に巻き付けた
▲演者と仮合成した検証例
AIによるアップコンバート機能「TopazVideoEnhanceAI」
FlameによるVFX制作では、AIによるアップコンバート機能「TopazVideoEnhanceAI」を活用した。制作時、拡大率が200~300%になる素材に対して、全てをオリジナルの4Kで作業すると作業コストがかかる。そのため、いったんHDにダウンコンバートし、それを本機能でアップコンバートすることで、素材の特徴を保つ、あるいはオリジナルの4K解像度を超えたクオリティを出すことができる
▲オリジナル素材
▲左から、4Kから等倍で切り出したもの(本来はこれで作業するのが望ましいとされる)、HDに落としたものをFlameのリサイズ機能でアップコンバートしたもの、同HD素材をTopazVideoEnhanceAIの「アルテミス」モードでアップコンバートしたもの(特徴はデノイズされる)、同HD素材をTopazVideoEnhanceAIの「ガイア」モードでアップコンしたもの(特徴はノイズが残るがアルテミスよりシャープになる)
▲人物のマスク生成にもAIを活用。FlameのMachine Learning Human Body Extractionノードにより高精度なマスクが作成できる
夜のシーン
夜のシーンでは、レンダリングにRedshiftを使用。リアルタイムでCinema 4D上の画を見ながら作業し、レンダー素材はNuke上でCryptomatteマスクを使い微調整。本作では、普段Nukeで行う調整作業の大部分を3Dで作業したという
▲ビル+ネオン
▲NukeではCryptomatteでマスク処理
夜のシーンのコンポジット