<2>現実空間の画づくり
適材適所が徹底された制作スタイル
本作で主人公が作業しているアトリエは現実世界の設定。室内の細かいインテリアパーツは全てキットバッシュによる。デザイン画を描かずに直接DCCツールの中でモニタやケーブルなどのディテールを足しながらレイアウトとモデリングを進めていくクリエイターならではの制作スタイルだ。担当したMIZUNO氏は語る。「既存のアセットだけでは世界観に合わないことがあるので、キットバッシュを足してよりディテールのある世界にしました」。なお、キットバッシュでのモデリングはポリゴン数が増えてしまうため、普段使用しているGPUベースのOctaneRenderではメモリを圧迫して不安定になりがちだった。そこで今回Redshiftを試したところ、問題なくレンダリングができた。オペレーションもわかりやすく、質感も綺麗で気に入ったという。テクスチャについては作業効率を重視して、モデルのUVを開かず、シェーダのカーバチャーノードを利用して金属のすり減った感じが表現された。
主人公が操作する架空のDCCツールなどのモニターグラフィックスは、Marirui氏が手がけたもの。本作のターゲットであるデジタルアーティストが見慣れた画面にするため、いろいろなDCCツールを再構築するというアプローチでデザインした。ボタンのひとつひとつ、ノードのつなぎ方などにこだわり、何をしているのかがわかるように意識したことで、本編では一瞬しか映らないものの、説得力のある画になっている。また、サブモニタの画面はTwitterやPinterestの画面をモチーフにデザインし、メンバーの過去作を貼り込んでいる。制作はIllustratorで行い、パスを効率的に読み込むAE用プラグイン「Overlord」を介してAEにインポートし、モーションを付けた。「今までは、VTuberなどの可愛らしい世界観のモーショングラフィックス、デザインが中心だったので、本作のようなSFは初挑戦でした。良い経験になりました」(Marirui氏)。
脳をモチーフとしたカットは、抽象表現を得意とするNAKAKEN氏が担当。ここは現実とバーチャルをつなぐ重要なカットで、中間的な世界を意識した質感と色で表現している。脳は市販モデルを使ったが、内部の植物のような造形はHoudiniを使用。バーチャルらしさを足すためにマテリアルをクリアにしたり、ライティングを調整したりとルック調整に試行錯誤し、最終的に行き着いた色味はアトリエのシーンの色味に合わせた。また、臓器はホルマリン浸けのイメージと、意識がバーチャルに溶け込むというイメージを表現するために、流体エフェクトをX-Particlesで作成した。
集合住宅街のレイアウト変遷
▲完成
レイアウトとライティング作業
Cinema 4D(以下、C4D)によるレイアウトとライティング作業
▲モデルのレイアウト作業
▲ライティング作業。オレンジの球がライト
アトリエのデザインとレイアウト作業
▲C4Dによる作業
アトリエ空間のライティング変遷
▲第1弾
▲第2弾。フォグを足して雰囲気をつくった
▲第3弾。青みがかった光にし、主人公の真上からのスポットを強めに。電子機器のグローも強めに調整
▲完成
モニターグラフィックス
アトリエ内のモニターグラフィックスのデザイン。世界設定に合わせて近未来感を感じるものに仕上げている
▲メインモニタ
▲サブモニタ
ニューロンのモーショングラフィックス
PV本編、VRデバイス起動後に描かれるニューロンのモーショングラフィックス
▲モーションのテスト時
▲完成デザイン
脳のルック案
▲同じくPV本編でVRデバイス起動後に描かれる脳のルック案
脳のモーション
脳のモーションの試行錯誤
▲テストver.1
▲テストver.2
▲プレビュー
▲完成カット
シミュレーション
脳から発生するエフェクトはHoudiniでシミュレーション
▲細胞のつながりはVolume VOPで生成
▲流体状のエフェクトはMountainを活用した