03 3D主体の背景セット&ショットワーク
クローズドショットにも対応できる3DCG背景
グランドフィッシャーと主人公・黒崎一護(福士蒼汰)の決戦の舞台となるバスロータリーのシーンは、実写撮影時に建てられた3店舗分のオープンセットと地面以外は3DCGベースで仕上げられた。「当初は、1階だけは全てセットに建てるという案もあったのですが、最終的に3DCGで制作することになりました。背景が大きく映るカットが多数あったので、建物内のインテリアや窓、照明まで細かく作成しています」と、高谷圭吾バックグラウンドリードはふり返る。背景チームは5名体制、クランチタイムで7名に達したという。まずはロケハンに同行して、10ロケーションほどで収集した3Dレザースキャナによるリアルティキャプチャから得たデータなども活用しながらモデル制作が進められた。完成したバスロータリーのエンバイロンメントは、全エリアをまとめて読み込むと、重すぎてファイルを展開することすら困難のため、4つのエリアに分けてShotgunに登録。ショットワークの際は、アングルに応じて該当するエリアが自動的に読み込まれるように設定したという。特に、建物が破壊され始めた後の、瓦礫オブジェクトが多数存在するシーンが重く、取り回しには最後まで苦労したそうだ。
エフェクト制作は、2017年5月からスタートした。FXリードを務めた草本健介氏を中心に約5名で担当。ヘキサポダスの足下に起こる土煙エフェクトのみFumeFX、そのほかはHoudiniベースで制作しているとのこと。「他プロジェクトとの兼ね合いもありますが、ピークでは10名近くで対応していました。グランドフィッシャーのシーンは背景が3Dベースのため、自ずと破壊エフェクトも多く求められたので、今年2月末の最終納品ギリギリまで作業をしていました(苦笑)」(草本氏)。
コンポジット工程でも、グランドフィッシャー戦の作業が難航したという。「触手の動きが非常に高速なことから、ベクター情報が欠損するという不具合が発生しました。そこでNUKE上でブラーの度合いを弱めたものを下に敷いて補完するといった細かな調整が求められました」(小野寺 丞コンポジター)。取材の最後に、土井VFXスーパーバイザーに本プロジェクトを総括してもらった。「今回もスタッフががんばってくれたことで、悪霊・虚〈ホロウ〉だけでなく、3D背景もハイクオリティに仕上げることができました。ですが、3DCGの割合が高くなればなるほど作業負荷が大きくなるため、実写VFXの背景をフルCGで作成するためにはいろいろと課題があります。パイプラインのさらなる改良など、プロダクションとしてさらに発展していきたいですね。レンダリングコストへの対応としては、V-Ray NextやRedshit等のGPUレンダラにも興味があります。今後もチャンスをみつけて新しい技術を積極的に採り入れていければと思います」。
撮影時に導入された「Ncam」による、カメラトラッキング例。カメラが撮影している方向の背景映像から特徴点を自動的に算出し、カメラ座標を書き出すことが可能。これにより、悪霊・虚〈ホロウ〉のアセットやプリビズデータをリアルタイムで合成できるため、役者や撮影スタッフには好評だったという。しかし、現行システムではNTSCでしかビデオ出力が行えないため、CG・VFX本制作用のデータとしては精度不足とのこと
グランドフィッシャー戦の舞台となる空座町(からくらちょう)バスロータリー前のシーンより
建て込み中のオープンセット。向かって右奥の建物3棟以外は3DCGベースで作成されたことがわかる
破壊処理を加えた店舗の3DCGモデル
本番用にレイアウトされた背景セット
完成した本編カット
Houdiniによるエフェクト作業の例
実写プレート内のカラーチャートとCG環境のルック合わせ、そして3Dレーザースキャナー「FARO FocusS」によるリアリティキャプチャデータを用いたライティング環境の構築例
撮影されたチャートとMayaでレンダリングした画像をNUKEに読み込み比較、調整
3Dスキャンデータに対してHDRをプロジェクション
光源を抜いたHDRと、抜き出した光源をライトに貼り、撮影現場の環境を再現。グリーンバックの箇所は3Dの背景をlatolongでレンダリングしたものを合成してHDRIを作成
チェック画像の例
上記で作成したLightSetを用いたライティングの例
コンポジット工程に出荷されたグランドフィッシャーのAOV
ブレイクダウン