02 ダイナミックな竜巻から静的なドライアイスの気流まで
三池監督の的確なジャッジの下高負荷のビジュアルを実現
OLMデジタルでは、作画アニメ向けのCG制作、フルCG、実写VFXという3つのチームに分かれて活動しており、3DCGのメインツールにはMayaを用いてきた。そうした中、実写VFXチームでは近年、ノードベースでプロシージャルに作成できるという強みを活かし、エフェクト制作にはHoudiniを積極的に導入している。そして、『ラプラスの魔女』プロジェクトでは、エフェクト制作をHoudiniに集約することが実現できたという。Houdiniワークでは、レンダラにRedshiftの採用も検討したそうだが、社内サーバにはGPUが積まれていないこともありMantraを採用。冒頭シーンの竜巻表現では、ロングショットは約60フレームとさほど長尺ではなかったこともあり、シミュレーション15分、レンダリング30分程度に収めることができたという。それに対して、子ども時代のヒロイン・羽原円華(広瀬すず)親子が避難する小屋を竜巻が破壊するアップショット(48フレーム)は、ボリュームのボクセル感を解消するために解像度を上げた結果、シミュレーションに6時間、さらに描画領域が画面全体を占めていたため、レンダリングにはまる2日を要したそうだ(エフェクト制作向けに割り当てられたレンダーサーバは48コア×5台とのこと)。VFX表現の高度化にはレンダリングコストの増大が付きものであるが、三池監督はいつも決断が早く、不要な画は撮らない。理不尽な修正リクエストもまず発生しないため、基本的には画づくりに注力することができたという。
中盤に描かれる公園シーンにおけるドライアイスの気流が地面を這うエフェクトについてはまず、Houdini上でカーブを作成し、ドライアイスの気流が進む経路を決定。その上で、Pyroで生成した煙をカーブに沿わせてシミュレーションさせている。「カーブに沿って動きを付けつつ、Mayaチームから支給されたコリジョンモデル(地形など)をシミュレーションに反映させてリアルな動きを追求しました。カーブに沿い過ぎた不自然なドライアイスの動きを目立たせなくするために、カーブに沿わないものも組み合わせています。シミュレーションにもレンダリングにも相応の計算時間が必要なので、当時は毎日帰るときに、重いシミュレーション(レンダリング含む)を20パターンくらいサーバに投げて、翌朝確認。そこから良いものを監督にチェックしていただくという要領で進めていました。今後さらなる効率化を図る上では、やはりGPUレンダラも導入したいですね」(太田氏)。
ロングショット向けシミュレーション例
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竜巻本体のアセットは、レイアウト工程で作成した竜巻形状のチューブオブジェクトからVDBボリュームに変換したものをソースに、Pyroで竜巻煙を発生させ、アニメーションチェック時に作成した竜巻パーティクルのポイント情報を再利用して、回転する竜巻煙を作成
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デブリは竜巻本体の回転フィールドを流用してPOPで動きを作成。インスタンス用のデブリオブジェクトはMayaで作成したものをAlembicで出力し、Houdini上でShaderをアサインし直し、インスタンス用にbgeo形式で連番として出力したものをPythonで大量にデブリオブジェクトとして読み込み、それらをPoint Wrangleでinstancepathアトリビュートを追加して、InstanceSOPでランダムに配置
地面周辺を舞う煙アセットを追加し、ベースとなる竜巻アセットの完成となる
ロングショットのブレイクダウン
冒頭シークエンスにおける竜巻のクローズショットのHoudini作業例
アニメーションチェック時の作業UI
クロースショットのブレイクダウン
中盤に登場する、円華がドライアイスの気流の動きを予見してみせるシーンより。気流のシミュレーションが地面に対してコリジョンさせるために、ロケ現場で撮影した写真データを用いた地形の3D化(フォトグラメトリー)を実施。【左】がグレーモデル、【右】がテクスチャ表示モデル。この3Dデータに対して、穴の空いている箇所を埋めたり、メッシュを整えた上でシミュレーションに用いられた
Houdiniによる気流のシミュレーション作業例
カーブに沿って動きながら地形に対してコリジョンするドライアイスのシミュレーション結果
ブレイクダウン
一連のコンポジット処理を施した完成形