03 クライマックスを演出するダウンバースト
最後は総力戦で目指すクオリティを追求
先述のとおり、クライマックスに登場するダウンバーストに巻き上げられるクルマのモデリングについては、カーモデリングに定評あるスペック五次元に委託。「『藁の楯』(2013)プロジェクトで初めてお世話になったのですが、ハイクオリティなモデルをとても早く仕上げてくださるので今回もボルボとマセラッティ2車種のモデリングをお願いしました。ダウンバーストによって舞い上がった際にボディの底面も見えるので、細かなパーツまで丁寧に作成していただいてます」(太田垣氏)。
クルマが落下・衝突する対象となる洋館については、美術部から提供されたデザイン画に合わせてモデリング。ただし、スタジオセットの寸法を忠実に再現するのではなく、カットバイで見映えの良さを優先させたという。また、主となる自然現象のエフェクト自体は全てHoudiniで制作しているが、それだけでもかなりの作業負荷に達したため、洋館の屋根部分が破壊される表現についてはMayaチームが担当。「地形や、天井の破壊など大きいパーツはMaya、煙や竜巻などボリューム周りはHoudiniと役割分担をしました。木の破壊はささくれができないと木材の破壊感が出ないので、細かいコントロール(飛ばしたい方向、タイミング、さらにハイスピードも絡んでいるのでその調整)がしたいという三池監督の強い要望に応えるべく、従来はフルCG案件で運用していたインハウスツールを実写VFX用途にも対応できるよう、R&Dチームに機能拡張(プレビュー表示、木の割れ方の表現)してもらったものを活用しています」(太田垣氏)。
また、竜巻やダウンバーストの表現には、牛やクルマのような大きなものからチリまで大小様々なものがあり、俗に言うデブリの存在も欠かせない。「デブリの調整は、最後まで行なっていました。ショット単体では気にならなかったものでも、シークエンスとしてつながりでチェックすると不自然に感じることが多々あったので、コンポジット工程で何度もチェックと調整をくり返しました。コンポジット作業では、今回初めてMantraからライトごとのパスを利用したのですが、明るさからの調整がやりやすかったので今後も活用していこうと思っています」(中野悟郎リードコンポジター)。
クライマックスの舞台となる洋館のスタジオセットのリファンレンス写真。1ページ目に掲載した絵コンテのとおり、ダウンバーストによって吹き飛ばされたクルマが落下・衝突してくるため、天井部分にはブルーバックが配置されている
洋館に衝突するクルマの3DCGモデル(メッシュ表示とレンダリングイメージ)。モデリングはスペック五次元が担当し、質感調整はOLMデジタル内で行なっている
Houdiniで作成したダウンバースト表現用のボリュームエフェクト
HoudiniでFX素材をレンダリングする際にはMayaで作成したライティング環境を再現する必要がある。そこでR&D部門が再構築を効率化するためのツールを開発した
インハウスツール上で対象となるMayaのシーンファイルを選択すると、Mayaシーン内の情報がリスト化され、ライティング時に使用している遮蔽オブジェクトやマスクアウト用のオブジェクトなど、Houdini上で必要なオブジェクトが自動選択される。Exportを実行するとAlembic形式で出力され、それらを本ツールで読み込めば、Mayaの環境を簡単に再現できる(ライティングデータも同様)
Mayaのライティング環境を再現した例。破片やクルマのオブジェクトはマスクアウトしつつ、オブジェクトの落ち影などは反映させた状態で煙のみをMantraでレンダリング
天井の破壊エフェクトはOLMデジタルのR&D部門が開発したインハウスツール「OLM Shatter and FractureTool」が用いられた(図は、四角柱にツールを適用して分割結果をプレビューした状態)。「このツールは、Mayaのメッシュを効率良く分割するためのツール群で構成されています。今回利用した『Apply VoronoiFracture』は、ボロノイ図形を用いたメッシュ分割のプレビューを行うことができるツールで、いくつかの分割パターンがプリセットとして用意されていて、ある程度の自由度で分割を調整することが可能です」(小俣氏)。プレビューで分割結果を調整、メッシュの生成は最後に一度だけ行えば済むため効率良く分割が行えるという
ブレイクダウン
実写の煙素材を追加した上で、カラコレ等のコンポジット処理を施した完成形