02 ドローン撮影への対応|バベルの塔&ドリームジャンプ~
リファレンスだけではなく実際に"体験する"ことも重要
前半の見せ場となる、巨大な棒のてっぺんに貼り付けられたカードを奪い合うゲーム「バベルの塔」シーン。ここではカードを奪取しようと、ドローンを操縦する若者が登場するが、ドローンは全てCGで描かれている。ドローンのモデルについては過去に制作したものをベースに、クレーン(アーム)部分を追加。劇中の設定に応じたカラーリングやデカールを施し完成させた。「私物のドローンがあったので、CGスタッフたちに操縦してもらいつつ、本番カットに近いアングルで参考動画も撮りました。その上でアニメーションを付けてもらいました」と、伊藤創志コンポジットリード。飛んできて止まる際の挙動など、自分たちで操縦してみて気づいたことも多々あったそうだが、それらの知見がアニメーションに込められた結果、リアルなシーンが完成した。また、バベルの塔は全高8mという設定だったが、ロケ地となった山下埠頭のビルの隣に立つビルが高すぎたため、カットごとに見た目合わせで塔の高さをCGで調整されたものの、ドローンと同じく良質なリファレンスのおかげで実に自然なビジュアルに仕上がっている。
帝愛ランドのシーンに登場する「ドリームジャンプ」は、挑戦者(自殺志願者)たちがバンジージャンプのように体にロープをくくりつけ、高所から飛ぶというゲーム。10人中9人が死ぬ(ひとりだけが大金を手にする)という過酷なギャンブルだが、このシーンでもドローンによる撮影が行われたため、役者たちのグリーンバック撮影の前にプリビズが作成された。「バベルの塔と同様に、監督、撮影監督、助監督にお越しいただき、3ds Maxで作成したプリビズを見てもらいながらカメラワークやカット構成を詰めていきました。グリーンバック撮影前にレンズ、アングル、カメラワークや、素材の分け方などが把握できたので、その後の作業もスムーズでした」と、堀尾氏。また、落下途中のカットについては役者を正面と側面から捉えた2種類の実写プレートが用意されたが、正面のカットはNUKEで、側面のカットはオフラインの段階で挑戦者たちへのズームアップを加えたいという監督の意向が確認できていたので、そうしたダイナミックなカメラワークを後から付けるのが得意なAfter Effectsで作業が進められた。「側面のカットはコンポジットで大胆にカメラワークを加えていったのですが、自分のアニメ撮影の経験が活かせたのかもしれません。そして、なによりも佐藤監督がこちらの提案を積極的に採り入れてくださったからこそ実現した表現だと思います。個人的にも遊び心を込めることができた思い入れのあるカットになりました」(伊藤氏)。
街中のビルの屋上に巨大な棒が立てられ、てっぺんに貼り付けられたカードを若者たちが奪い合う"若者救済イベント"こと、「バベルの塔」シーンより。俯瞰ショット向けCG・VFX作業の例
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ドローンで空撮した実写プレート
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隣のビルから伸びる鉄骨をCGで追加したが、隣のビルが高すぎるため、全高8mという設定では塔の高さが足りなくなってしまった。そこで塔のCGを追加で作成。各ショットごとの見た目に合わせて調整された
カイジを捉えたショット向けCG・VFX作業の例
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ドローンのCGアニメーション素材。実写プレートのマッチムーブはboujouで行われた
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一連のコンポジットワークが施された最終形。本文でも述べたとおり、「バベルの塔」と「ドリームジャンプ」シーンの制作では、プリビズを基に実写撮影が行われたため、グリーンバック素材をキーイングして合成するだけで完成に近い画が出来上がっていたそうだ
一発逆転の"死のギャンブル"「ドリームジャンプ」シーンより。バンジージャンプ台をアオリで捉えたマスターショット
グリーンバック撮影に先立ち作成されたプリビズより
一連のコンポジットワークが施された最終形
10人の挑戦者たちをドリーで捉えたショット
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実写プレート。ジャンプ台の足場に支えのグリーンが被っていることがわかる。単純にキーイングすると、足場の根元や側面の素材がなくなってしまう
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そこでNUKEの3D機能を使い、実写素材を加工して上からかぶせる足場素材を作成
挑戦者たちが落下する様を側面から捉えたショット。各挑戦者にズームアップしていくカメラワークは伊藤氏によって、AE上で付けられた
挑戦者10人分の実写プレート(ノーマルスピードで撮影)