>   >  VFXアナトミー:NUKEによるレイアウトほか、老舗・マリンポストが実践する新世代のVFXワーク|映画『カイジ ファイナルゲーム』
NUKEによるレイアウトほか、老舗・マリンポストが実践する新世代のVFXワーク|映画『カイジ ファイナルゲーム』

NUKEによるレイアウトほか、老舗・マリンポストが実践する新世代のVFXワーク|映画『カイジ ファイナルゲーム』

03 NUKEによる方針固め|最後の審判~人間秤~

アニマティクスをコンポジットワークで作成

先述のとおり、ワークフローと技法の両面で新たな試みが実践された。特筆したいのが、本項で紹介するNUKEによるCGアニメーション制作向けのレイアウト兼アニマティクス作業だ。ポスプロの作業期間としては2019年1月~9月までと比較的長期間が割り当てられたが、その一方では3DCGスタッフが全面的に参加できるタイミングが7月になってしまうという事情もあったことから、伊藤氏の提案でコンポジットワークで対応できることは可能なかぎり進めておくという戦術が採られた。この戦術が特に効果を発揮したのが「最後の審判~人間秤」シーンである。支援者たちが投じたコインが巨大な秤を転がり落ちていくカットやドローンのCGアニメーションについて、レイアウトとアタリの動き(アニマティクス)を伊藤氏がNUKEの3D機能を駆使して付けていった。これにより、先だって監督に画づくりの方向性を確認してもらうことができ、CGスタッフは細かな動きの調整や質感といった3DCGならではのつくり込みに注力することができたという。「作品づくりはチームワーク。自分たちぐらいの規模のプロダクションでは細かな分業はかえって非効率です。だからこそ、各人が得意なスキルを持ち寄って、上手く補間し合えるチームをつくることが大切だと思っています」(伊藤氏)。このシーンの後半には9台ものドローンが登場し、支援者たちがコインを投じる中、金塊を運んでいく。実写プレートとのインタラクションを考慮することが必須の非常に難しい表現だ。「ドローン9台で84個もの金塊を運ぶ必要がありました。(クライマックスの盛り上がりを演出する)ワチャワチャ感を出したいという監督のリクエストに応えるべく、アニメーションを付けていきました。実写との一体感を高める上では、ドローンが秤に金塊を落とす際に、どこにも当たらず落ちるのでは不自然だと思い、ドローンが落とした金塊が当たって別の金塊が追加して落ちる表現を加えたりもしています」(堀尾氏)。リファレンスとして提供してもらった小道具の金塊が手元にあったので、それを社内でグリーンバック撮影した実写素材を合成することで効率化を図った。「動きを付ける際は、金塊を落としたときの効果音がセリフと被らないようにも配慮しました。ドローンのカットは30ほどあったので大変でしたが、良い表現に仕上げることができたと思います」(桑本氏)。最後に堀尾氏が次のように総括してくれた。「ドローンの表現については、ありがちなビジュアルにならないことを心がけましたが、今後も研究を重ねて、表現としてもクオリティとしてもより良いものを追求していきます」。

帝愛アイランドで開催されているものの中で最も過酷なギャンブル「最後の審判~人間秤~」シーンより

NUKEによるレイアウト兼アニマティクス作業。CG班からローポリのドローンモデルと金塊モデルを出してもらい、NUKEに読み込み9台分の動きが付けられた。ショットごとにサイズ感が変わらないよう、天秤のモデルもノードで作成している

9台分のレイアウトを行なっているカットのノードツリー。複雑なノード群にならないよう、cameraはクローンを使って見やすさを優先



  • NUKEで作成したレイアウト兼アニマティクス



  • 一連のコンポジットワークが施された最終形。Alembic形式でアニメーションをベイクした状態のデータをNUKEから出力し、それをガイドにCGアニメーション作業が行われた


ドローンが金塊をクレーンで吊り上げるショットより



  • 3ds Maxによるアニメーション作業の例



  • NUKEで作成したレイアウト兼アニマティクス。金塊を掴むタイミングもこの段階で決めている



  • 完成したドローンのCGアニメーション。インタラクションが必要な金塊もCGで作成



  • 実写の金塊(小道具)をCGに置き換えるためのカラ画マット



  • 一連のコンポジットワークが施された最終形



  • CGライティング用のHDRI素材。グリーンバック部分をレタッチした上で使用


クライマックスに登場する転がるコインのアップショット。ポスプロ工程に入ってから、監督のリクエストを受けて新たに作成された。別カット用の実写プレートをNUKEで加工し、そこへコインのCGアニメーションを合成している



  • NUKEでコインの動きを付ける。背景のガーコイルは視差がつくようにレイヤーを分けて配置している(中央に見えるのがコイン)



  • CylinderノードとCardノードを使い、仮合成用のコインを作成。大きく映るため、最終的にはCG班が作成したハイディテールなものへ置き換える



  • 実写プレート。別カット用の素材をコンポジットワークで加工する



  • 【画像左】にマットペイントを施した状態



  • NUKEで作成した仮のコインを使い、アニメーションとしてのOKが出るまで詰めていく



  • CGで作成したハイディテールのコインに置き換えた最終形。コインのエッジにハイライトが格好良く入るようにモデリングとライティングが施された


劇中に登場するゲームを表現したモーショングラフィックスもマリンポストが担当。映画美術のキャリアをもつスタッフがデザインが手がけることで、デザインから完成までワンストップで対応された。図は初期に作成されたモーションデザイン案で、3案が用意された



  • 案1。曲線的でグラフィカルなイメージ



  • 案2。サイバーなビデオゲーム風イメージ

案3。フラクタルノイズのエフェクト主体で実写的なイメージ。最終的にこちらの方向で画づくりが進められた


本制作の変遷

マリンポストのスタッフがデザインしたタロットのグラフィック素材。AEで厚みと動きを付けられるようにレイヤー分けされている



  • AE上で3Dレイヤーをいくつも重ねて立体感を演出



  • 背景とタロットを合成した状態。タロットに厚みが付けられたことがわかる

タロットのフレームに質感を追加した完成形



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.259(2020年3月号)
    第1特集:漫画制作に活かす3DCG
    第2特集:エンバイロンメント・ハック
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年2月10日

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