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YP監督とUNDEFINEDが同世代のアーティストと共に手がけたGorilla Attack『隔世 gorilla』MV

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<2> ボリューメトリックキャプチャの特性を演出にも活かす

ボリューメトリックを活用しファーのなびきまでキャプチャ

ボリューメトリックキャプチャは、スタジオの360度方向に配置された数十台のカメラで撮影した人物・物体・空間を3DCGデータに変換し、任意の方向から撮影した映像として再現できる技術だ。写真から再現するフォトグラメトリーとは異なり、動いている対象を空間も含めて3D化できる。ヒガシローランドとニシローランドが登場するショットの多くは、この技術を用いて制作されている。「ボリューメトリックキャプチャを導入したことで、アニメーションはもちろん、3Dモデルやテクスチャの作成、クロスシミュレーションなどの手間も省けましたが、撮影データが届くまでに3週間ほどかかったので、納期を守れるか不安でした」(MIZUNO氏)。

ニシローランドがバイクで高速道路を疾走するシークエンスでは、バイクの3Dモデルからグリップやシートなどの位置・角度・スケールを計測。スタジオにバイクのガイドとなるモックを作成し、それにまたがるヒガシローランドに送風機をあてて疾走感を演出した。キャプチャ後は、撮影データとバイクや高速道路の3Dモデルを組み合わせるだけでシーンを作成できたので、作業負荷が大幅に軽減された。「衣装に付いているファーのなびきまで撮影データに反映されており、その精度に驚かされました。撮影時には実写撮影と同じ感覚で演出指示が出せたので、非常にやりやすかったです」(YP監督)。

▲【左上】バイクの3Dモデル/【右上】【左下】【右下】3Dモデルの計測情報


▲計測情報を基にスタジオにモックを作成。本作のボリューメトリックキャプチャは、70台以上のカメラを設置した、最大5㎡の収録可能範囲をもつスタジオで実施された。なお、グリーンバックでの撮影となるため、衣装の色などには制限が生じる


▲撮影データからモックの情報をブーリアン演算で削除し、バイクの3Dモデルに置換。衣装のファーのなびきまでしっかり再現されている


納期に間に合わせるため、アセット作成では市販データを積極的に活用し、足りないアセットのみKou Nakamura氏がモデリングした。「まずは多くのショットに登場する蛍光灯の作成から着手し、地下鉄の駅や高速道路なども作成しました。モデリングには3ds Max、テクスチャ作成にはSubstance Painterを使っています。時間が限られていたので、一方向からしか見えない高速道路の遮音壁やビル群などは、板ポリゴンに写真を貼り付けて作成しました」(Nakamura氏)。一連のアセットは各メンバーが愛用するバラバラのツールで使用されたため、各ツールのフォーマットに合わせて出力された。

▲蛍光灯を作成中のSubstance Painterの作業画面


▲地下鉄の駅を作成中のSubstance Painterの作業画面


  • ◀▲高速道路のアセットを作成中のSubstance Painterの作業画面。細部の資料として、高架下まで見回せるGoogleマップを活用した


高速道路のシーンは、MIZUNO氏がベースのデータを構築し、カメラワークを設定した後、nagafujiriku氏がライティングとコンポジットを担当。リアリティのあるカメラワークと非現実的な無人の高速道路を組み合わせ、クールな映像を目指したという。「高速道路のシーンデータはとてもリアルな仕上がりでしたが、照明が暗くおとなしい印象だったので、遮音壁の下部に重要アイテムの蛍光灯を組み込み、近未来的なイメージをつくり上げました。カメラワークに応じて蛍光灯が後方へながれることで、疾走感も同時に演出できました」(nagafuji氏)。

▲【左上】【右上】初期のシーンデータ/【左下】【右下】完成画像。蛍光灯を追加したことで、ニシローランドのシルエットが際立ち、立体感が強調されている


▲カメラワークを確認中のYP監督と、ダンスのリハーサルをするヒガシローランド


▲ダンスと楽曲が少しでもずれると違和感が生じてしまうため、各撮影テイクのフレーム数と楽曲のタイムコードを合わせたプレビューを作成。この情報を基に、プロジェクトファイルのフレーム数と楽曲が合わせられた


▲Alembic形式の撮影データと連番テクスチャを読み込んだC4Dの作業画面


▲C4Dのモーションカメラ機能を使用し、リアルな手ブレやダイナミックな動きを演出。ダンスシーンは複数の撮影テイクを組み合わせて構成しているが、ボリューメトリックキャプチャでは人物の位置を完全に合わせられないため、テイクのつなぎ目では様々な処理を加えてひとつながりの動きに見せている


▲C4Dの粉砕エフェクトを使用し、砂のように崩れ落ちる演出を追加。テイクのつなぎ目を逆手にとった奇怪な演出を施した。そのままではチープに見えるため、コンポジット時にパーティクル素材を足している


▲このつなぎ目では、C4Dのツイストエフェクトを使用


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<3>画のインパクトを高めるエフェクトやコンポジット

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