<2>本番撮影&3DCGワーク
生身の役者とCGキャラクターをリアルタイムで"共演"させる
実際の商業制作を意識するという点においては、戦闘用ロボット・エドと、劇中で戦うことになる警察ロボ(声:古川 慎、モーション:村岡友憲)のデザインも非常に洗練されている。コンセプトデザインを手がけたのは、MORUGA氏。ツークンとは初めての仕事だったそうだが、市田監督の強い意向によって実現したという。「技術デモですが、映像作品としても成立させる上ではメカデザインもしっかりとしたものにしたいと考えました。MORUGAさんは3DCGによるデザインワークも行われる方なので、フルCGキャラクターとして制作するという意味でもスムーズにやりとりを行うことができました」(市田監督)。ロボットのモデル制作は、警察ロボットから着手。それをベースに、パーツや色を変更してエドを完成させた。リグはベーシックなものだが、ロボットであることから関節のしくみには、メカニカルな機構も取り入れられた。「コンセプトデザインでは、関節周りのパーツが大きくて、動きの妨げになる可能性があったため、パーツ自体を小さめにしてアスリートを意識したデザインへと調整してもらいました。戦闘アクションでは掴み合いやパルクール的な動きも取り入れたかったので、そうした動きを付けやすい形状に仕上げてもらいました」(市田監督)。
本番撮影では生身の俳優とCGキャラクターがリアルタイムで共演できるよう、リハ時はロボットを演じるアクターに実際の立ち位置で演技をしてもらい、本番ではグリーンバックのキーイングやロトスコープに影響しない少し離れた位置で演じてもらい、キャプチャデータにオフセットをかけるという手法が採られた。さらに現場では、ツークンが自社開発するAIによる自動生成マスク(AIが実写プレートを解析して撮影時に白黒のマスクが同時に収録されるというしくみ)を使い、リアルタイム合成によるプレビュー環境が整えられた。「レイカの実体は別の場所にあり、エドと行動するのはホログラム映像という設定にしました。ホログラムルックにすることで馴染ませ作業の工数を軽減するというねらいもあったのですが、AIが自動生成したマスクを最終的なコンポジット作業でも活用するという意図もありました」(市田監督)。
エフェクト表現については、複雑な破壊シミュレーションはHoudiniで作成されたが、火花や煙などはUE4のCascade Particle Systemを使用。ホログラム加工など、演出的なエフェクトについてはAEプラグインが用いられた。
コンセプトデザインと完成モデル
MORUGA氏によるロボットのコンセプトデザインと完成モデル。床を転がったり、パルクールを取り入れた複雑なアクションに対応するため、装甲のようなパーツはなるべく減らし、足回りも細くすることで、アスリートのようなシルエットになるようにデザインを依頼。コンセプトデザインを基に、一部アレンジも含めて3D化。エドと警察ロボ、それぞれベースとなるデザインを共通のものとして、パーツの付け替えやカラーリングの変更によって、2体のキャラクターが制作された。エドは身体中にステッカーが貼られているなど、レイカとの関係性が感じられるようなヒントが追加されている(全てUE4の画面)
▲エドのコンセプトデザイン
▲警察ロボのコンセプトデザイン
▲エドの完成モデル
▲警察ロボの完成モデル
モーションキャプチャ収録&実写撮影とリアルタイム合成
モーションキャプチャ収録&実写撮影とリアルタイム合成の様子。撮影はツークンのモーションキャプチャスタジオで行われ、実写素材、CGカメラ、CGキャラクターのモーションを全て同時収録。リアルタイム合成を使った撮影に1日、モーションキャプチャのみの撮影に1日が費やされ、撮影班とCG班が密に協力したことで順調に進んだという
▲モーションキャプチャ収録の様子
▲リアルタイム合成のプレビュー
▲AIマスクを使ったリアルタイムプレビュー
▲グリーンバックを用いたリアルタイムプレビュー。システム上はどちらでも対応可能なため、併用して制作した
AIマスクを用いた人物合成のブレイクダウン
リアルタイム合成時は遅延を軽減するため、低解像度の実写プレートで合成している。AIマスクはあくまでプレビュー用のため再度マスクを切り直す作業が必要だが、本作では人物がホログラム状態という設定のため、ノイズを消すだけでそのまま使用できたカットもあったという
破壊エフェクト
破壊エフェクトは主にHoudiniで作成してUE4にインポート。土煙や火花はUE4内で配置したほか、一部のエフェクトはAfter Effectsで追加するなど、臨機応変に対応した
▲Houdiniでの作業
▲UE4での作業