<3>Unreal Engine 4による画づくり
UE4のレイトレース機能が着実に写実性を高める
撮影時のリアルタイムプレビューから本制作まで、UE4によるリアルタイムCGが全面的に活用された本作。UE4による画づくりをリードしたのが、CGスーパーバイザーを務めた鄧 小輝(とう しょうき)氏だ。「今回は、バージョン4.25から正式に実装されたリアルタイムレイトレーシングにチャレンジしました。メインとなる舞台が荒廃した駅という薄暗い空間だったため、ノイズとの戦いになりました。GIやリフレクションのサンプリング数を上げればノイズは解消できますが、今度はシーンが重くなりリアルタイム再生ができなくなってしまいます。そうしたところ、昨年9月にNVIDIA GeForce RTX 3090が販売開始となり、さっそく導入してみたところレスポンスがかなり改善されました。それでも、最高品質まで上げるとリアルタイム描画は厳しかったため、作業はLowサンプリング設定で進めて、最終レンダリング時にレンダーキューのコンソール設定で各パラメータを高い値に設定してレンダリングを行うワークフローにしました。ツークンでは、2015年末にUE4を導入し、翌年から本格的に使いはじめたのですが、UE4のリアルタイムCG表現には確かな進化を感じています。今後もVFX制作にゲームエンジンを活用していきたいです」。リアルタイムレイトレーシングは、火花などキャラクターに対する動的なリフレクションで特に効果を発揮したという。さらにRTX 3090を導入したことによって、完パケサイズもフルHDから4Kへ上げることもできたそうだ。
リアルタイムCGベースの映像制作はプロダクションマネジメントにおいても恩恵をもたらしたという。「毎週末に全尺をレンダリングする設定にしてもらうことで、週明けの進捗確認を効率良く行うことができました。今回は企画から本制作までの全工程を実践的に行うことができたことも有意義でした」と、ラインプロデューサーを務めた貞木優子氏。RTX 3090搭載PCを使えば、フルHD解像度なら約半日、4K解像度でも土日の2日間のうちにフル尺のレンダリングを終えることができたそうだ。
市田監督が本プロジェクトを次のように総括してくれた。「業界歴まだ4年目の自分でも、企画が通れば本作のように監督を務めさせてもらえることを素直に感謝しています。コロナ禍はピンチですが、新たなことに挑戦するチャンスでもあると思っているので、これからも守りに入ることなく、前を向いて進んでいきたいです」。
UE4によるエンバイロンメント制作
UE4によるエンバイロンメント制作の様子。本作では地下鉄と地上の2ロケーションが登場するため、それぞれレベルを分けて管理している
▲地下鉄(UE4)
▲地下鉄(本編)
フォトグラメトリー
フォトグラメトリーによるデータ作成にはRealityCaptureを使用。α7R IIIで被写体1つを100~200枚撮影し、3Dアセット化を行なった。写真のような古びた布を纏った骸骨では、多少メッシュが崩れてもごまかせると見込んでいたものの、肋骨などの空洞部分は上手く3D化されるか心配していた。しかしやってみると問題なく3D化され、質感もフォトリアルなモデルが作成できたという
▲撮影の様子
▲RealityCaptureによる作業
UE4での調整
▲アルファチャンネル付きの実写プレートをUE4にインポートし、UE4内で実写とCGが合成された画を見ながら作業。実写素材と絡むような調整作業がスムーズに進められる。また、CGアセットの奥に実写人物を配置することもでき、本作ではロボの奥に人物が立っているショットで活用した
リアルタイムレイトレーシングによる確認
UE4での作業では、リアルタイムレイトレーシングによる確認を活用。ただし最終クオリティの設定ではPCの動作が重くなるため、作業内容に合わせて適宜サンプリング数などの各パラメータを調整しながら制作を進めたという
▲リアルタイムレイトレーシングを有効にした作業画面
▲UE4でレンダリングしたショット
コンポジットのブレイクダウン
微調整することもふまえてAfter Effectsを通しているが、UE4に実写素材が入っているためUE4を最終レンダーとすることも可能