>   >  VFXアナトミー:コロナ禍で実現したパリと日本のリモートによるVFX制作、大河ドラマ『青天を衝け』
コロナ禍で実現したパリと日本のリモートによるVFX制作、大河ドラマ『青天を衝け』

コロナ禍で実現したパリと日本のリモートによるVFX制作、大河ドラマ『青天を衝け』

<3>別撮りした背景と人物を巧みに合成

ディープコンポジティングでショットワークを効率化

パリ万博シーンは、作中でも将来の栄一に大きな影響を与えた重要なエピソード。当初からVFXが必須のシーンであり入念な準備がされていたが、何しろ1867年当時の万博の資料が少ない。存在する資料も写真より絵画やイラストがメイン。リファレンス収集ではなにかと苦労したそうだ。主要アセットである蒸気機関のリグは技術に定評ある神央薬品が担当し、蒸気などのエフェクトは屋外でのカットも含めてHoudiniが使用された。

CGの素材は基本的にバージョンアップのしやすさを考慮してDeep Imageでレンダリングをして、ディープコンポジティングで仕上げられた。実際、万博シーンのショットには、途中から旗や看板などの装飾品が足されていったが、ディープコンポジティングを用いることでマット素材が必要なく、追加ポイントだけをレンダリングし直すことで前後関係を意識せずに効率的に作業が行えた。また、万博のパビリオンの屋内は窓から太陽光が入っていることもあり、多数のライトを使用してリッチなレンダリングを行なっているが、ノイズを消すには相応のレンダリング時間が求められる。そのようなレンダリング負荷の高いショットの頻繁な修正にも、ディープコンポジティングが有効だったという。

徳川昭武(板垣李光人)のナポレオン三世への謁見シーンは、先述の通り現地で撮影した背景に日本で撮影した人物を合成。その際、謁見する昭武が履く浅沓(あさぐつ)による歩幅と要する秒数を算出してパリの撮影クルーに伝え、日本での撮影素材と整合するように入念な調整が行われた。また、臨場感を出す上では一部の撮影にはドリーも利用されたが、後付けの動きで人物を合成できるかテストが重ねられた。通常のロケであれば何ということのない撮影も、リモートで行うにあたり細心の注意と綿密な打ち合わせが必要だった。パリの撮影クルーは、VFX専門ではなかったため、VFXコーディネーターを務めた畠井氏によってカメラの情報やカラーチャート、グレーボールなど、VFXに必要な情報を記録してもらっていたことが役立ったという。また、パリの撮影クルーとのビデオ会議を重ねるうちに相互理解が進み、先方からも様々なアイデアを提示してもらえたそうだ。そして、パリ編で編み出された背景と人物を別撮りして合成するという手法は、国内での撮影にも応用されているとのこと。例えば、ペリーが長崎を訪れるシーンの撮影には、スタッフ3名だけが長崎へ行き、「観光丸」を用いて撮影した背景の実写プレートに対して、スタジオ撮影した人物を合成。この手法は、今後の制作にも活用されていくのかもしれない。

別撮り素材を合成

ナポレオン三世への謁見シーンは、パリでの現地撮影素材と日本での役者の撮影素材を合成して制作した

▲現地での撮影の様子

▲合成素材となる日本使節団の影は、国内撮影の役者の動きに合わせて3DCGモデルで動きを付けて作成。他の方法として、グリーンバック撮影時の足元のコンタクトシャドウ(接地面の影)をキーイングやロトスコープで抽出していくやり方があり、そちらのほうが採用例が多いが、今回は3DCGの影を使用することで合成作業時間を短縮。馴染ませ具合も高水準で良い結果となった

合成ショットのブレイクダウン

▲絵コンテ



  • ▲パリ撮影のスタンドインリファレンス



  • ▲フォンテンヌブロー城(パリ撮影)



  • ▲【フォンテンヌブロー城(パリ撮影)】にCGで作成した影を合成



  • ▲役者グリーンバック(国内撮影)



  • ▲役者マスク



  • ▲完成ショット

パリ万博の会場(機械館)

パリ万博の会場(機械館)。同会場は大規模なCGセットが制作され、蒸気機関や小物プロップなどもつくり起こされた

▲撮影設計

▲イメージボード。パリ万博の雰囲気を表現するにあたり、このアングルが基本となった

▲蒸気機関の3DCGモデル

▲万博内の小物プロップの一例で、エレベータのもの

パリ万博会場の3DCG作業

▲万博機械館のメイン光源は左右の大窓から入る設定。パリ万博使節団は、実際の役者の立ち位置を想定してスタジオで撮影されたHDRなどから、CG内でスタジオのライトの明るさを再現。その後、CGの背景オブジェクトを加えながら、再度エリアライトやポイントライトなどを使って、実写とバランス良く馴染むライティングに仕上げた

▲光が差し込む印象的な建物として描くため、窓からの光線素材を別レイヤーで作成、ArnoldのGoboフィルタを通してレンダリングした。また、奥の背景に差し込むレイと、画面手前にかかるレイ(全体の馴染みのバランスをとるためのもの)を別々に出力している

▲蒸気機関の蒸気エフェクト。車輪に絡まる蒸気が会場内の雰囲気をリアルにした

Deepの使用

Deepを使用して3DCG素材の中に2D素材を配置

▲Deepを3D表示。別々にレンダリングされたDeep素材をNuke上でマージする

▲配置した2D素材の一例(緑でハイライト表示)

ブレイクダウン

パリ万博シーンのマスターショットのブレイクダウン。蒸気機関、蒸気、様々な機械、道具展示物、エレベーター、人物、光のレイヤー、塵などを何層も重ね、奥行きのあるルックにしている。当時の資料を参考に、パリらしさや万博の華やかな会場を試行錯誤した



  • ▲CGモデルのワイヤーフレーム



  • ▲レンダリングしたCG背景



  • ▲レイを合成



  • ▲グリーンバック撮影プレート



  • ▲背景と人物プレートを合成



  • ▲一連のコンポジット処理が施された完成形

リファレンス

▲パリでの撮影に先立ち、本番と同様の衣装と履物に身を包んだ昭武が進む距離と速度、目線の目安を確認できるリファレンスを撮影。これをパリチームと共有して撮影に臨んだことで、現地で撮ったようなリアルな演出が行えた

ブレイクダウン

昭武がナポレオン三世に謁見するシーンのブレイクダウン。本カットはパリで撮影した画面奥の背景と手前の女性、国内スタジオでグリーンバック撮影した使節団(中景)という3つの素材で構成されている。モーションコントロールでの撮影ではないため、グリーンバック素材はそれぞれスタビライズ処理をした後、背景素材からストロークやガタツキを検出して適用した。最も時間を費やしたのはマーカー消し作業とシワムラを一律化するスクリーンコレクション作業。合成作業時は、パリ背景がディフュージョンフィルタを介して撮影された素材だったため、グリーンバック素材にも同様のフィルタを適用できるツールを使用した。なお、エッジ処理は安易にエクステンドするのを避け、素材のディテールを活かして合成するよう心がけた

▲絵コンテ



  • ▲フォンテンヌブロー城の最背景(パリ撮影)



  • ▲昭武と日本使節のグリーンバック素材



  • ▲【昭武と日本使節のグリーンバック素材】のスクリーンコレクション



  • ▲奧側の背景プレートと、日本昭武使節団(中景)を合成



  • ▲フォンテンヌブロー城と手前の女性(パリ撮影)



  • ▲【左】のスクリーンコレクション

▲一連のコンポジット処理が施された完成形



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