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映画『バクマン。』(VFX制作:ピクチャーエレメントほか)

映画『バクマン。』(VFX制作:ピクチャーエレメントほか)

<2>モーショングラフィックスを使ったバトル表現の開発

漫画制作の興奮をいかにダイナミックに表現するか

本作の見どころのひとつが、モーショングラフィックスを駆使したバトルシーンだ。最高と秋人が、他の漫画家たちとジャンプでの人気順位争いをするシークエンスで、2人が漫画制作に切磋琢磨する姿を、VR空間で戦っているような演出で見せている。効果音はデザインされた擬音のモーショングラフィックスで表現され、エフェクトにも集中線やスクリーントーンの模様を使うなど、ダイナミックでグラフィカルなシーンだ。このバトルシーンは、これまで数々のアーティスティックな映像を制作しているWOWが担当している。

WOWにオファーがあった当時は、まだバトルシーンの表現手法や内容などは固まっていなかったため、WOWが絵コンテを制作しながら「どうしたら盛り上がるのか」を大根仁監督やアクション監督を交えながら考えていったという。「絵コンテを描き始めたのが2014年の1月。そこから監督たちに意見をもらい、何度もアイデアのキャッチボールをしながら時間をかけて内容を詰めています。途中、時間的に間が開いていますが、絵コンテが出来上がったのは5月でした」と阿部氏は語る。

絵コンテがアップされた後、まずはそれを基にCGによるプリビズが作成され、その後アクションアクターによるテスト演技を撮影した映像に、エフェクトやモーショングラフィックスを合成して実写版のプリビズが作成された。バトルシーンの映像は、2Dや3Dなどひとつのショットに多くの手法が混じり合って構成されている。例えばエイジの筆から出る墨は3DCGだったり、3D空間の中を飛んでいるような擬音があったり、逆に平面的にコンポジットされている擬音もあったりと、様々な要素がひとつの映像の中で利用されているのだ。漫画のような2次元平面で起こるダイナミズムと3DCGの躍動的な動きが絶妙にデザインされた空間でミックスされ、非常にダイナミックな演出となった。



バトルシーンのプランニング過程。白い空間で漫画を使って表現するというアイデアは早い段階で決まっていたが、表現をアニメ的にするのか、漫画的に平面で構成するのかなど、細かいアイデアのチューニングが行われている。

▲<1>WOWで制作した絵コンテ

▲<2>絵コンテを基にどのカット で制作中の漫画のページが使用されるかを指示したもの。右が使用される漫画のカット、左にはアクションアクターのテスト演技を使ったプリビズが配置されている

▲<3>バトルシーンの3DCGによるプリビズ。青が最高、赤が秋人だ。空中に舞っている四角い板は漫画のコマの動きを表したもの

▲<4>ペン先から出る墨の動きのプリビズ

▲<5>絵コンテを基にアクションアクターによる演技を撮影して作成したプリビズの一部



バトルシーンのデザインプランの数々。

▲<1>初期のデザイン。着地時の衝撃をパーティクルで表現した案

▲<2>漫画のトーンのような模様を付加した案

▲<3>最終的に決定されたデザイン

バトルシーンが完成するまでのながれ。

▲<1>最初に作成された絵コンテ

▲<2>絵コンテを基にアクションプランが検討され、プリビズ用に撮影を行う

▲<3>スタジオで撮影された最高(手前)と秋人(奥)の実写プレート

▲<4>プリビズ映像の実写部分を、撮影された本番の実写プレートに置き換えたもの

▲<5>飛んでくる消しカスや鉛筆カスのエフェクトや背景を本番用素材に差し替えた完成ショット

<3>バトルシーンの素材制作

様々な素材で構成されたバトルシーン

このバトルシーンでは、スクリーントーンを切り貼りしたようなエフェクトや、擬音が3次元的にアニメーションされたり、ペン先から墨が飛び散ったりと、ひとつのショットが様々な素材や手法によって構成されている。ほとんどのコンポジットの作業にはAfter Effectsが使われており、3DCGの素材制作には3ds MaxとCINEMA 4Dが使用されている。ショットの内容に応じて使用しているツールはまちまちであるが、使用ツールのちがいによってショットごとに映像のトーンが変わってしまわないように気をつけながら作業が進められたという。

映像の上に合成されている擬音などはAEでかなりの数を足しながら、3Dとも2Dとも判断できないような映像になるようにつくり込まれている。「役者の3人が非常に動ける方々なので、そのアクションに合わせるため、たくさんの素材を使った手数の多い作業になっています。撮影するショット数も40~50ショットとかなり多かったので撮影自体も心配でしたが、3人の身体能力のおかげでスムーズに撮影を終えることができました」と阿部氏。

スタジオでは、白いステージに緑のマーカーがあるだけの場所で演技をしてもらわなくてはいけないため、ショットの内容やタイミングを把握する際は事前に作成した詳細なプリビズが非常に役に立ったという。撮影は4K解像度で行われており、コンポジット時に微妙な拡大縮小といった加工はしているものの、回り込みやドリーバックなども最終画面のレイアウトに近い状態で撮影されている。シーンの制作には約6名のスタッフが関わっているが、様々な手法によって作成された素材が混在して使われているため、ひとつのショットが複数のスタッフによって作成されているという。


2D素材を使って表現されたエフェクト例。

▲<1>最高のペン先の軌跡のエフェクト

▲<2><1>を使った完成ショット

▲<3>秋人がカッターを使ってスクリーントーンを切るエフェクト

▲<4><3>を使った完成ショット

▲<5>擬音を2D素材で作成したもの

▲<6><5>を使った完成ショット



最高とエイジとではペン先から出る墨の表現が異なる。エイジの持つペン先からは、3ds Maxのパーティクルで作成した立体感のある質感の墨が放出されている。

▲<1>背景プレート

▲<2>実写プレート

▲<3>墨の3DCG素材

▲<4>手前に重なる漫画のコマの素材

▲<5>3ds Maxで墨の軌跡を作成している作業画面。Particle Flowを使って作成されている

▲<6>完成ショット



バトルシーンの完成ショットからの抜粋。たたみかけるようなカットの応酬によって、連載の人気投票ランキング争いをくり広げる3人の戦いをダイナミックに表現している。擬音や漫画のコマが配置された奥行きのある空間は、漫画の世界に没入して作業に明け暮れる最高と秋人の心情をよく表している

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