<4>プロジェクションマッピングを利用したシーン演出
漫画制作の過程をプロジェクションマッピングで表現
最高と秋人が漫画制作に没頭するシーンでは、彼らによって次から次へと漫画が描かれていく過程が、撮影現場に投影されるプロジェクションマッピングで表現されている。このプロジェクションマッピングの制作を担当したのがアンドフィクションの上田大樹氏だ。単純に撮影してしまうと2人が黙々と作業をしているという映像的にはあまり変化のないシーンになってしまうので、止まることがない作業感をどのように表現するのかを検討していく中で、「役者の動きとプロジェクションマッピングを絡めると面白いものができるのではないか」というアイデアから、実際にプロジェクションマッピングを使うとどのように見えるかをプリビズを作成して検討していったという。
撮影セットという限られた空間の中でプロジェクションマッピングを行うには、プロジェクタの設置位置が限定されてしまうため、効果的にプロジェクションするためのプロジェクタの位置や照明を細かくプランニングする必要があった。当初は投影される映像をくっきりと見せるために白塗りのセットを作成するという案もあったが、バトルシーンと被ってしまうため床を若干明るい色の素材に張り替えただけの作業場で撮影が行われることに。
「リアルな作業場のセットにプロジェクションすることで、現実と彼らの頭の中が地続きになっている感じが上手く表現できたのではないでしょうか」と上田氏は語る。映像自体は単純だと上田氏は言うが、白い紙に漫画が浮かび上がったり、徐々に漫画が描き込まれていき完成にいたるまでの工程が流れるように映し出されていく様子は、これまでにない映像体験を感じさせてくれる。
プロジェクションマッピングのためのプランニングと撮影現場の様子。
▲<1>シーンのプリビズに合わせてプロジェクタの位置などがプランニングされている
▲<2>撮影現場に設置されたプロジェクタ。8000ANSIルーメンのフルHDプロジェクタが3台使用されている
▲<3>プロジェクタからテストパターンを投影してセッティングを行なっている様子
▲<4>現場での送出はMacベースの「Catalyst PixelMAD」というアプリケーションを使用し、照明のムービングライト用コンソールを使って、照明の信号であるDMXを通して、制御や複数の再生マシンの同期をとっている
プロジェクションマッピング用投影映像の制作手順。
▲<1>小畑健氏が描いた原稿を下描き、ペン入れ、ベタ塗り、トーンと制作段階順に分けてスキャンしていく
▲<2>スキャンした素材をAEに読み込み、だんだんと原稿が仕上がっていくようにアニメーションを作成していく
▲<3>原稿が浮き上がるような表現は、スキャンした原稿にAEでフェイクの影をつくり表現
▲<4>カットごとにセットの形状や、役者の動きを想定しながらAEでモーションを作成していく
▲<5>AE上でプロジェクタによって投影した場合のシミュレーションを行い、撮影現場でのカメラワークも踏まえて調整していく
プロジェクションマッピングが使用されたシーンの完成ショットからの抜粋。サカナクションが提供するBGMの効果と相まって、2人の創作に対する没入感が前面に表現されたシーンとなっている