>   >  VFXアナトミー:『Beyond the Moment of Beauty - Into the Galaxy』by 佐藤隆之(OTAS.TV)
『Beyond the Moment of Beauty - Into the Galaxy』by 佐藤隆之(OTAS.TV)

『Beyond the Moment of Beauty - Into the Galaxy』by 佐藤隆之(OTAS.TV)

03 Phase 3(本制作) from 2016 September to December

良質な実写素材を得るためにアニマティクスをつくり込む

2016年の春頃から再び仕事が多忙を極めるようになり、『Beyond~』の制作は再び中断することになった。だが、その間に携わった案件を通じて、「『Beyond~』を必ず完成させよう」と決意する機会にもめぐまれたそうだ。「カイル(※Prologue Filmsの創設者であり、オーナーのカイル・クーパー)に誘われて、映画『スター・トレック BEYOND』タイトルバックの制作に参加しました。制作中はLAのオフィスで作業していたのですが、同僚が担当したネビュラの表現が素晴らしい出来映えで感銘を受けたのです。彼はKrakatoaをベースに作成していたのですが、『これに負けない表現をつくってやる! 今度こそ必ず『Beyond~』を完成させるんだ!』と」。また、昨年はアッシュ・ソープなど、Prologue時代のかつての同僚たちが意欲作を立て続けに発表するというビッグイヤーだったことにも後押しされたそうだ。

こうして、2016年9月から「フェーズ3」の制作がスタート。10月1日(土)に実写撮影を行うことが決まったため、まずはそれまでに演者が介在するシーンのアニマティクスを完成させることに注力したという。このシリーズ特有のユニークな制作手法になっているのが、撮影前に一般的なアニマティクスの範疇を大きく超えたハイクオリティのアニマティクス(事実上の本番3Dレイアウト)を用意すること。これにより、撮影時はアニマティクスのモニタアウトを見比べながらの目合わせで、実写とCGのパースやタイミングはほぼ合致できるのだそうだ。「とは言え、撮影時には思わぬアクシデントもありました。クライマックスでヒロインが自分の分身と向き合うカットがあるのですが、その撮影には電動制御のレールを用意したところ、いざ撮影しようとしたら故障してしまいました(苦笑)。やむなく手動のカメラワークで撮ったのですが、AEのスタビライザと3Dトラッキングを組み合わせることで何とか対応しました」。

CG作業では、流体シミュレーションやパーティクルエフェクトが積極的に活用された。ネビュラやクライマックスに登場するトーラス状のポータルエフェクトの表現は、X-Particlesをベースに、TurbulenceFDとKrakatoaを併用。「Krakatoaも今回初めて使ったのですが、3ds Max版で高名なツールということもあり、C4D版に関する情報が非常に限られていたので苦労しましたね。新しいツールの習得には相応の時間と労力が必要ですが、その意味では『フェーズ1』でR&Dを行えたことが役立ちました」。本作は、昨年12月中旬に無事完成し、現在はVimeoで公開中である。


フェーズ3でスケッチしたものをまとめた画像

フェーズ3におけるスタイルフレームのブラッシュアップ例


中盤に登場する滝シーンの初期デザイン(フェーズ2で作成したもの)


  • AEのペイントツールで改善案を思いつくままに描き込む。「シリーズ作品であることをビジュアルとしても表現しようと、前作(第1章)に登場させた曼荼羅のようなデザインを追加することにしました」


  • 先ほどのペイントオーバーをガイドとして、AE上でリデザインしたもの

中盤に登場する滝のシミュレーション作業例


滝の水流はC4DプラグインX-Particlesで作成し、フィジカルレンダラでレンダリング。「滝はレイアウト的に遠方のため、それほど具体的に見えないので、シミュレーション速度を向上させるためにもエミッタ(黄色)やコライダーオブジェクトは極力シンプルにまとめました」


  • 雲のボリュームエフェクトはPhoenixFDで作成。「スモークを使い、影も計算しています。ただ、ライトの数を増やすとレンダリング負荷が膨大になってしまうので、可能な限り減らしました」。雲については、クオリティ的にも遜色なかったことから標準レンダラを用いている


  • シーン全体を表示させた状態。実際には各要素ごとに分けてレンダリングを行うが、大半のオブジェクトがひとつのプロジェクトファイルにまとめてある

ブレイクダウン


  • C4Dから書き出した連番素材を素組みした状態


  • CG素材(雲、鳥)に加え、前作で作成したダイヤと遠方の惑星素材を合成


  • 滝、ヒロイン(実写素材)、曼荼羅を合成


  • グレーディングを施した完成形

2016年10月1日(土)にイイノ 南青山スタジオで行われた実写撮影の様子


  • スタジオ全体の様子。RED Dragonによる4Kグリーンバック撮影が行われた(写真中央は演技指導を行う佐藤氏)


  • キャメラマンを務めた藤本ツトム氏


  • クライマックスのヒロインが自分の分身と向き合うショットの撮影模様。電動制御が可能なカメラレールが用意されたが、機材トラブルにより手動での撮影が余儀なくされてしまったそうだ


  • 「演者に対して実際に風を当てて撮影することで実写とCGの間にインタラクションが生まれ、最終的な作品クオリティを高めることができました」

クライマックスシーンのオブジェクトトラッキング例


  • まずは、AE上でワープスタビライザーVFXと通常のスタビライザーにてトラッキング


  • 左画像のデータをC4Dに読み込み、3Dトラッキング


さらにカメラの位置などを調整した上で、ガイド用オブジェクトを配置

Krakatoaをベースに作成したトーラス状のポータルエフェクト作業例


  • ポータルエフェクトの外側。KrakatoaにX-Particlesでシミュレーションしたデータを読み込む。X-Particlesで生成したパーティクルを制御するために、TurbulenceFDで作成した煙も後から合成する


  • 同じ要領で作成したポータルエフェクトの内側

制作過程を図示したもの


  • フェーズ3初期に作成したアニマティクス。この段階ではヒロインを単身で描く計画だった


  • ヒロインを演じるモデルの方とのディスカッションから、「宇宙が創り出すもうひとりの自分」というアイデアが生まれた。図は撮影ガイド用の仮コンプ


  • 実写素材に差し替え、VFXワークを進めていく


  • パーティクルの粒子をより細かくし、ライティングや色味、背景の宇宙などをブラッシュアップ。グレーディングを施した完成形



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