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NHK連続テレビ小説『ひよっこ』タイトルバック(VFX制作:MORIEほか)

NHK連続テレビ小説『ひよっこ』タイトルバック(VFX制作:MORIEほか)

02 ミニチュア撮影&アセット制作

大物量への対応と同時にディテールへのこだわりも忘れない

ミニチュア撮影は、『ニャッキ!』『プチプチ・アニメ』などで知られる通称700スタこと、NHK内の特殊撮影室「CN-700」が担当。また、NHK制作技術センターのCG/VFXチームが、ミニチュアセットのフォトグラメトリーならびに実写プレートのトラッキング等を協力している。一連の撮影は、田中氏が用意された多種多様なレトロアイテムを手に取り、実際に配置をしてみながらレイアウトやカメラワークを決めていくという、即興性あふれるスタイルで進められた。撮影手法については動画で撮るのか、コマ撮りするのか悩んだそうだが、700スタが常用しているNHKが2010年頃に独自開発したというモーションコントロール特機を用いたコマ撮りが採用された。「この特機では、ティルト(垂直)、パン(水平)、ドリーに対応しているので、被写界深度表現ありとパンフォーカスとで同ポジで撮影することができました。今回は、背景プレートは被写界深度込みで撮影したのですが、CG合成用にパンフォーカスで同一のカメラワークでも撮影する必要があったのです。マッチムーブ(カメラトラッキング)作業を担当したのですが、モーションコントロールの精度が高かったのでスムーズに作業を終えることができました」とは、NHK CG/VFXチームの高畠和哉氏。各カットの撮影がOKになると、続けてフォトグラメトリー用の素材撮りが行われた。「フォトグラメトリーの目的は、アセットではなく、アニメーション作業時の舞台(地形)ならびにCGキャラクターの落ち影、照り返しなど、合成精度を高めるための素材として活用することでした。全13シーン(カット)のうち、畳のシーンとガラス瓶をネオン街に見立てた夜景シーンを除く11シーンでフォトグラメトリーを行いました」とは、NHK CG/VFXチームの日高公平氏。

最も多いシーンでは100体以上が登場することもあり、キャラクターと乗り物等のプロップ全体で150以上のモデルが制作された。「一部の乗り物モデルについてはNHKさんからご提供いただいたものが活用できました。リグはHumanIKを使用しています。キャラクターの体型は、男性、女性、子どものそれぞれで素体を統一。スキンも共通化させるなど、できるだけ効率良く作業することを心がけました」と、アセット制作をリード した田島誠人氏はふり返る。Cloth表現については、モブキャラのスカートやコートにはnClothを使用する一方、ヒロインにはMarvelous Designerを用いてリッチな表現を追求。さらにHair表現についても板ポリにIKスプラインを通して、そのカーブをHairシミュレーションで動かす(FKでも操作出来るように設定してある)といった丁寧な処理が施されている。「実は路線バスなど自動車のウィンカーには当時採用されていた矢羽根式のギミックも仕込んでいるんですよ。気づいた人はほとんどいないかもしれませんけど(笑)」(田島氏)。

NHK放送センター内のスタジオで行われたミニチュア撮影の様子



  • ラストカットの夕景ロングショット用のレイアウトを行う田中達也氏(中央)



  • ガラス瓶をネオン街に見立てたシーンをセッティング中



  • NHKが独自に開発したコマ撮り用のモーションコントロール特機。ティルト、パン、ドリー移動に対応



  • コマ撮りした写真データをDragonframeで編集してアニメーション化させる。「コマ撮りアニメーション作家さんは個人で活動されている方が多いこともあり、レイアウトや動きを撮りながら考えることが多いのですが、CGアニメーション工程のプリビズを活用することでより効率的に制作が行えるのではないかと思いました」とは、700スタの宇賀神光佑氏


NHK CG部が担当したフォトグラメトリー作業の例。ミニチュアセットを様々な角度から写真撮影したデータを基に3Dモデル化。マッチムーブシーンのアタリ(CGモデルを置くための参考)として活用された。「今回の撮影では、フォトグラメトリーをはじめ様々なCG・VFX技法を目の当たりにすることができて勉強になりました。完成したタイトルバックもすごく気に入っているのですが、今後も機会があればぜひCG・VFXの方々とコラボレーションさせてもらいたいですね」(700スタの中村匠吾氏)

タイトルバック中で印象的な「上京する女の子」キャラクターモデル。「カット(シーン)ごとに細かく服装を切り替えられるようにセットアップしています」(田島氏)


女の子のカラーテクスチャ。「ミニチュアフィギュア的なタッチが出るように塗料で塗った際の微妙な塗りムラを意識しました」(田島氏)。そのほかにもディスプレスメントやノーマルマップを用意。大半のテクスチャが複数キャラ間で共有されているが、汎用性を高めるのと同時に、後からのパーツ追加にも対応するために余裕をもってUVを配置したという

女の子のHair設定。髪の毛オブジェクトにIKスプラインによるHairシミュレーションを適用できるようにセットアップ

上京する女の子は様々な演技をするため手付けアニメーションが用いられているが、ClothについてはMarvelous Designerによるシミュレーションが施された

レイアウト用モブキャラの素体モデル。左から、男、女、子ども


男性モブキャラのバリエーション例。男、女、子どもの各々で頭身が統一されているので、レイアウト作業時の素体モデルから手早く差し替えることが可能となっていた

序盤に登場する、女の子が乗り込む路線バスの完成モデル。NHKから提供されたアセットをベースに、ドラマ本編に登場するカラーリングへとカスタマイズされた

路線バスのセットアップ。移動距離とタイヤの回転が合うように仕込まれている。「ライトやウィンカー、カラーリングなどを上部のコントローラで切り替えることができます」(田島氏)。当時の自動車に採用されていた矢羽根式ウィンカーもしっかりと再現

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03 アニメーション&ショットワーク

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