02 荒野シーン
地道な作業の積み重ねによって確かな成果を導き出す
カーアクションに関わる各種CG・VFX処理や列車まわりの窓抜け合成をはじめ、最も作業量が多くなったのが荒野シーンである。マッチムーブにはPFTrackを使用。360度カメラが回転するショットへの対応なども求められたが、特別な解決策があるわけではないため、基本的には正攻法で地道にマスク処理とトラッキング作業に取り組んでいたという。ただし、映画VFX案件を主業務とするSpade&Co.では大量のショットワークを、一定のクオリティを保ちながら量産するためのノウハウを相応に有しているという。例えば、全体通して背景が非常に広範囲なシーンであれば、中間から奥の背景に関しては、カメラの動きによるパララックスがほとんどないため連番では出力せず、各シーンごとに20KのパノラマレンダリングをしてNUKE上で簡易オブジェクトにカメラマッピングすることで対応するといった具合だ。手前のしっかり見える所に関しては、プレーンの地面に対してディスプレイスメントマップなどで細かい凹凸を加え、さらにMASHで小石、草などを配置し、レンダリング。当初は列車の窓外風景もCGで作成する案もあったそうだが、制作期間とのバランスを考え、実写素材をVFXで加工することになった。一定の速度で前進し続けるという列車の走行特性に合わせるべくドローンによる360度空撮を実施。「通り過ぎていく背景とはいえ、近代物が映り込むことが多々あったので、それらのバレ消し作業にも時間を費やしました(苦笑)」(白石氏)。メインツールについてはMayaとNUKE、特にレンダラについてはV-Rayで統一しているが(白組のみCGのメインツールに3ds Maxを使用)、エフェクトツールについては、外部パートナー各社が精通しているものを自由に選んでもらったという。社内ではPhoenixFDを、アニマの鉄橋爆破シーンはHoudiniを使用。
「事前の計画立てが機能して、短い期間でも大量のショットワークに対応することができました。実作業については、ひとえに当社メンバーと外部パートナーの皆さんががんばってくれたおかげです。近年、今作のように短い制作期間の中で物量の多いCGが必要とされることが増えているので今後は新しいツールも積極的に導入していき、より効率化を図っていきたいです。特に大量のアセットを配置する背景制作において、インスタンス機能が強力なClarisse iFXなどは今後使っていきたいツールのひとつですね」(木川氏)。
鬼兵隊の車輌アセット例
M1025型ハンヴィー
トラック。「鬼兵隊の車輌については、約10車種の候補からCG的に作りやすいもの4車種を選び、tsumikiさんに制作していただきました」(白石氏)。スケジュールを考慮し、市販モデルをリファインすることで、着実にハイクオリティに仕上げられた
江戸幕府のパトカーは実在しないデザインのため、加工を施した実車のフォトグラメトリーで生成したメッシュをガイドに作成
フォトグラメトリー用のマーカーを貼った実車。識別しづらい模様やボディカラーのため、マーカーが貼られた
銀時たちが奪取するパトカーの壊れモデル
背景をフル3DCGで作成した荒野シーンのショット例(Mayaシーンのプレビューとレンダリングイメージ)。「カメラが360度回転するショットのため、どのアングルでも破綻しないように作成しています。カットごとに手法は変えていますが、このショットではプレーンの地面に対してディスプレイスメントマップなどで細かい凹凸を加え、MASHでさらに小石、草などを配置しました」(木川氏)。抜けの山についてはマットペイントで対応している
荒野シーンのショットワークをリードした白組向けに作成した、各ショットにおける列車ならびにクルマの相関を図示した資料より。これらをガイドに、ショットごとに良い見映えになるよう画づくりが進められた
列車内の構造や進行方向を示した参考画像。「向いている方向によって、ガラスの見え方の変化や抜けてくる背景の見え方を考える必要があるため、常に進行方向を意識して作業するようにしていました」(白石氏)
荒野シーンに登場する、銀時が運転するパトカーがドリフトする様を俯瞰で捉えたショットのブレイクダウン