>   >  VFXアナトミー:手間暇を惜しまず正攻法で約800ものVFXショットをつくりきる、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』(リードVFXスタジオ:Spade&Co.)
手間暇を惜しまず正攻法で約800ものVFXショットをつくりきる、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』(リードVFXスタジオ:Spade&Co.)

手間暇を惜しまず正攻法で約800ものVFXショットをつくりきる、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』(リードVFXスタジオ:Spade&Co.)

03 江戸城シーン

自由なカメラワークに対応するフル3D化された背景

江戸城シーンのエンバイロンメント制作は3月から本格的にスタートしたという。クライマックスの決戦舞台となる天守閣の裏側に配置された回廊シーンでは、美術部からデザイン画を提供してもらいそれを参考に作成。「作業時間は限られた一方で、大量生産だったので、ベースは市販のモデルを購入し、それをブラッシュアップして作成しました。細かいデザインはCG班に一任していただけました。こちらからの提案も採用していただけたりと非常にやりがいがありました」(木川氏)。江戸城シーンは、近未来の建物と城との融合ということでその境目を自然に、さらにリアルなセットとも綺麗に繋げないと駄目なので苦労があったようだ。「セットエクステンションカットでのマッチムーブにはとても気を遣いました。また、アクションシーンではカメラが自由に動くため3D空間を完全に360°対応できるように作成しています。見えないところは2D処理 を併用するなど簡略化するのがセオリーですが、今回は後工程で作り直すといった二度手間が発生しないよう、見えない箇所にも必要に応じてアセットやライトを配置するようにもしていました」(木川氏)。

コンポジットワークは、撮影した人物プレートに合わせるというよりは、ビルのガラスに反射するハイライトや、回廊の中のコントラストを強めにつけたり、眩しさが強調されるように心がけていたという。江戸城シーンのレンダリングは1フレーム約1~2時間ほど。それが200ショットほどあったが、社内のサーバー10台でなんとか対応できたという。「基本的には、3DCGの段階でそこそこリアルな見映えになるように一発レンダリングで仕上げることを心がけました。先ほどもお話したとおり、コンポジット工程ではフォグやグロー処理を足す程度に止めて、3DCG要素については誰が担当しても一定のクオリティを保てるワークフローを構築しています」(木川氏)。

日本映画としてはトップクラスのVFX大作に挑み、見事、リードVFXスタジオとしての役目を完遂したSpade&Co.。最後に、代表取締役の小坂氏が今後の展望を率直に語ってくれた。「今後どうしていこうといった事業方針的なものは、あまり具体的には決めないようにしています。例えば、来期に人員を2倍にするといった目標をたててしまうと、それがノルマとなって、本来のVFX制作が束縛されてしまう気がするので......。個人として海外で活躍する日本人アーティストは増えていますが、プロダクションという組織として海外の案件、特に映画プロジェクトに携われると面白いかなと思っています」。



美術部が作成したイメージボード


美術部が作成した撮影セット参考用のSketchUpモデル。「このデータを提供していただけたので、撮影セットに対してかなり正確なCGセットを作成することができました」(木川氏)

【上画像:SketchUpモデル】をMayaに読み込み、トラッキング用マーカーの配置を確認。時間的な制約からカットバイでターゲットを貼ることが困難だったため、どのショットでも最低限のポイントが映るように実際に使用するカメラ、レンズによる簡易的なプリビズが作成された


初期にテストしたレンダリングイメージ。「各シーンごとに見えてくる箇所が異なるため、数地点から360度レンダリングを行いデザインや密度感などを詰めていきました」(木川氏)


完成した背景セット(メッシュ表示)。特にクライマックスのバトルシーンではカメラワークが激しくなることが決まっていたため、細かなディテールよりも全体の密度感を重視して構築したという


遠景、中景用のパノラマ素材

【上画像:遠景、中景用のパノラマ素材】をNUKE上でカメラマップした例。「中景以降に対してはカメラワークによるパララックスがほとんど生じないため、連番ではレンダリングせずに各シーンごとに20Kサイズでパノラマレンダリングしました。それらをNUKEに読み込み、簡易オブジェクトに対してカメラマップすることで対応しました」(木川氏)



ショットワークを担当する外部パートナー向けに提供したマスターショットのMayaシーンファイル。マスターデータ内でレンダーレイヤーやAOVの設定を行い、それをリファレンスで読み込むかたちで用いられた。ライティングについても担当者によってバラツキが生じないようにSpade&Co.側で各シーン用のライティングデータを作成している。「回廊(撮影セット)部分のモデルに合わせてマッチムーブしたカメラを配置してい るので、背景データを読み込むだけで必要なアングルにピッタリと合うようになっています。ショット数が膨大だったので、各ショットごとの個別の調整や設定が極力不要となるセットアップを心がけました」(木川氏)


各種プリセットを用意することで作業効率が高められた


PFTrackのディストーションプリセット作成画面。PFTrackではXML形式で各レンズのディストーションプリセットを作成できるため、事前に撮影したディストーションチャートを基にプリセット化している


NUKE上でレンズディストーションを戻すためのGizmo。ショットごとにレンズのミリ数、収録サイズなどを選択すると、それに合ったディストーションが適用されるしくみ


クライマックスに描かれる江戸城バトルシーンのブレイクダウン例



  • ベースのCG街素材



  • 江戸城天守閣&回廊の背景セットを合成



  • カメラ手前側の背景セットを合成



  • 天守閣に衝突し、爆発するヘリコプターのエフェクト素材を合成



  • 全体的なカラーコレクション&空気感の素材を合成



  • 一連のコンポジットワークを施した完成形(グレーディング処理前)。「ラストバトルの舞台は、天守閣の裏に構築された屋外の回廊という設定だったのでスタジオセットで撮影した人物素材(実写プレート)に合わせるというよりは、光量の弱さが出ないように屋外特有の眩しさが強調されるようなコンポジットを心がけました」(白石氏)。フルCGの建物が続く中でも、ビルのガラスに反射するハイライトや、撮影セットをエクステンションした白い回廊内でもコントラストが強めに出るように明暗を強調するという画づくりが施された



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.243(2018年11月号)
    第1特集:スタイライズ表現探求
    第2特集:著作物との関わり方
    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年10月10日

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