>   >  VFXアナトミー:東京の都会らしさ・埼玉の田舎らしさを圧倒的インパクトで描く映画『翔んで埼玉』のVFX
東京の都会らしさ・埼玉の田舎らしさを圧倒的インパクトで描く映画『翔んで埼玉』のVFX

東京の都会らしさ・埼玉の田舎らしさを圧倒的インパクトで描く映画『翔んで埼玉』のVFX

02 世界観の構築

都会らしさと田舎らしさグラフィカルな画づくりを徹底

東京都内のシーンは、モダンな高層ビル群で構成したり、王宮のような豪華絢爛さを強調した画づくりの一方、埼玉や千葉は田んぼや砂浜といった自然の景観を強調した画づくりが行われた(群馬にいたっては怪鳥が飛ぶ秘境として描かれる)。都会と田舎の対比を、徹底的にスペクタクルを高めた世界観によって描かれていることが本作の大きな魅力となっているわけだ。本作のタイトルバックは、"田舎路線の画づくり"の好例だろう。丸文字フォントの田んぼアートとして「翔んで埼玉」という文字が突如出現するインパクトをぜひ劇場スクリーンで確かめてほしい。「田んぼアートというアイデアは、撮影の3日前にこちらから提案したものでした。ドローンで空撮した実写プレートをトラッキングしてタイトルのフォントやレイアウトのベースをつくった後、IMAGICA Lab.さんに引き継いでいただき、田んぼアートとして自然な見た目になるように調整してもらいました。私自身もディレクターとして活動することが多く、一連の作業を自らAfter Effectsで行い完結させているシーンもあります。3D処理も昔に比べると敷居が低くなりましたが、私の場合はBlenderを使って3DCG作業を自分で行うこともあります」と、FILMの山本氏はふり返る。

続いては、"都会路線の画づくり"の例を紹介したい。「麻実 麗(GACKT)の自宅マンションの窓抜けの街並みの制作では、室内のライティングを考慮しつつ、都会のきらびやかさを両立させることに苦労しました。基本的には街並みの写真をカメラマップ等で配置しています。見た目のインパクトありきの画づくりですね。東京と埼玉の対比ということで極端にビルを増やしていますが、建物の重なり具合など物理的にあり得ないことになっています(苦笑)。写真素材についてはアーカイブや市販のものを使いつつ、プライベートで撮影したものも活用しました。群馬の県境シーンに利用した写真は、僕がギリシアを旅行した際にメテオラで撮ってきたものです」と語るのは、CHICAの山際久嗣氏。そして、中盤に登場する池袋シーンも印象的だ。劇中のセリフを借りれば「(池袋は)ある意味で埼玉の首都」ということで、池袋駅前のランドマークとして知られるTOBUやSEIBUの看板をレイアウトしつつも、SF的な近未来感も感じる無国籍な雰囲気を追求したと、池袋シーンのCG・VFXを担当したトムス・ジーニーズの佐竹 淳氏は語ってくれた。

田んぼアートとして描かれる本作タイトルバック



  • ドローンで空撮された背景プレート



  • 3DCG作業途中のチェック用QTより。タイトルの位置、サイズやフォントが適宜ブラッシュアップされていく

一連のコンポジット処理が施された完成形。カット尺が長く、アングル的にもタイトルが見えてから間延び感があるため、CGのシラコバトを追加。さらにタイトルの視認性を高めるべく、田んぼの色味を調整。田んぼアートとしての実在感あるタイトルバックが完成した


PFTrackによるカメラトラッキング作業の例

図中のキューブはトラッキングポイント。全体的に田んぼを緑色にしたいとの要望を受け、草の生えていないポイントは3Dで立体感を出しつつ草原の斑な感じも出したかったので今回はヘアー&ファーで対応。色味調整のみで問題なさそうな箇所はコンポジットで対応したという

常にカメラが動くため、2Dトラッキングでは、奥行き感があることから精度がイマイチだったため、3ds Maxでカラコレしたい箇所の位置情報をAEへ読み込むことができるプラグイン「After3dsMax」を併用。その位置情報の箇所に調整レイヤーを置き、カラコレする方式が採られた。修正対応も一度のトラッキングで全体が取り直せるためスムーズだったという


コンポジット作業の例

実写プレートに対して、田んぼの3DCG素材を合成しつつ全体的に青々と健康的な見た目にカラコレ

田んぼの間の道をタイトルで埋めないようにひと区切りずつ調整。ここでもAfter3dsMaxで読み込んだ田んぼの位置情報を基に、マスクすることで対応


トムス・ジーニーズがCG・VFX作業をリードした池袋シーンのマスターショット



  • ブルーバックで撮影された実写プレート



  • 3D背景のレイアウト進捗。「SAT(埼玉急襲部隊)」のパトロールする気球船も追加



  • レイアウトを基に仮コンプした状態



  • コンポジット作業途中の状態。柵やタンク、電飾などセットのマスクが整えられた



  • 下手の抜けにビルを追加、TOBUの看板を傾ける等のレイアウトを修正。ライティングも潜伏感が高まる方向へと調整された



  • 【左画像】で追加した下手のビルを排除し、潜伏感を強調するためにセットの奥に3Dで造形物(給水塔や看板の裏など)を増やして隣にビルがもう1棟あるように(繁華街から少し離れた路地裏に位置するように)見せる方向でブラッシュアップされた


IMAGICA Lab.がCG・VFX作業をリードした埼玉と群馬の県境シーンのマスターショット



  • 実写プレート



  • 背景マットの基になったリファレンス写真。山際氏がプライベートの旅行で訪れたギリシアのメテオラで撮影したもの

アマゾンのジャングルをイメージして試作された別案。両パターンを確認して、切り立った崖の路線でブラッシュアップすることに決定

比較的長尺のためCGで作成した怪鳥を合成することに。図は遠方にレイアウトしたテイク

完成形。ビジュアルインパクトを重視し、カメラ手前を大きく横切る怪鳥でOKに。怪鳥のアニメーションやタイミングなどに細かいチェックが入った末に完成。中央に立つ壇ノ浦百美(二階堂ふみ)の背後をカメラがフォローアップして抜けが見えてくるショットのため、意外性を演出するにあたっては、背景マットの見え方についても細かくチェックが入ったという

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03 群衆表現