03 群衆表現
3DCGによる正攻法からスポーツイベントの実写まで制作手法もフリースタイル
圧倒的なビジュアルインパクトを、文字通りの"数量"で実践したのが群衆表現だ。本作のVFX表現の中でも、3DCGという意味では後半の大きな見せ場となる、埼玉解放戦線と千葉解放戦線の両軍勢が河川敷を挟んで 対峙するショット(予告編にも登場する)はひときわ細かな調整が求められたものだったという。「武内監督からは、地面いっぱいに両軍を埋めつくしてほしいというオーダーでした。そこで地平線の限りまで人を増やそうということになり、最終的には全体で7万人を超えたと思います(苦笑)。作業アプローチとしては、撮影現場でエキストラさんたちを数人ずつグリーンバックで撮影したものを素材として、3ds Maxでパーティクルにして配置しています。尺もかなりありますし、ロケ地は河原なので地面は平坦ではありません。かなり細かくトラッキングを取らないと奥の地平線近くがずれてくるため苦労しました。最終的には、トラッキングが上手くいっているデータを近景、中景、遠景など3~4種類に分けて合成しています」(廣本氏)。
クライマックスの舞台となる都庁シーンの群衆表現については、ユニークな素材が活用された。「本作の製作委員会に名を連ねるフジテレビジョンさんが『東京マラソン』を担当されていたので各所許諾をとり、映像を提供してもらえたのです。自分たちでエキストラを集めたとしても数百名が限度だと思うのですが、約3万6,000人ものランナーが都庁前に集まっている様子を素材にすることで臨場感のある群衆表現をつくり出すことができました。ランナーの方々はゼッケンを着けていますし、ランニングウェアは派手な色のものが多いので、合成する際は彩度を下げつつ、不自然な箇所には解放戦線の旗を合成することでパッと見では気づかれない域に仕上げられたはずです。万が一、観客に気づかれたとしても、ギャグ要素が強い作品ですし、逆にそれを話題にしてもらえるのではないかと(笑)」(赤羽氏)。事実、筆者は取材時に打ち明けられるまで気づかなかった。まさにアイデアの勝利だ。
後半の大きな見せ場となる、埼玉解放戦線と千葉解放戦線が河原を挟んで対峙するシーンより。群衆の汎用素材例
3ds Maxのパーティクル機能を用いたレイアウト作業の例。実写プレートの地形に沿ってパーティクルを散りばめ、それぞれに実写素材を割り当てている
3DCGでも旗素材が作成された
ブレイクダウン
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群衆をもっと増やしたいとの監督リクエストを受け、両岸の山部分や川上(画面・奥)のキワまで配置した状態
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一連のコンポジット作業が施された完成形。CGで作成したやぐらやサッカー観戦で見るような巨大な旗、のろしを追加し、さらに視覚情報を増やすことでリアルな見た目よりも派手さを優先した画づくりが実践された
クライマックスの舞台となる都庁シーンにおける群衆表現用の実写素材
ロケ撮影時に都庁の向かいのホテルから撮影した素材。撮影部とは別隊にて、赤羽氏がSony PXW-FS7で撮影したもの。群衆やクルマ足しに活用された
ロケ地となった都知事室の外観素材。コンポジット作業では、都庁に合成しても違和感のない色味調整を行い、デコラティブな外観が浮いてしまわないように留意したという
VFX作業の例
実写プレート。「東京マラソン」の記録映像が素材として採用された
一連のコンポジット作業が施された完成形。「とにかく道を群衆で埋めつくしたい」というリクエストに応えるかたちで画づくりされた
ロケ地で撮影された群衆素材の例
トゥエンティイレブンがCG・VFX作業をリードした、「埼玉解放戦線アジト」シーンのマスターショット
ドローンで空撮した実写プレート。地下っぽさのあるブルー寄りにカラコレしたプレートが採用された
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壇上のデザインはシンプルながらもスケール感のあるものを目指し、トライ&エラーが重ねられた。ルックとしては、SF的な格好良さを追求。ライティングも祭壇が目立つようにしつつ、サイドから差し込む光や少しタングステンらしい色味も感じるようにして空気感を演出
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一連のコンポジット作業が施された完成形。群衆の服の色味を抑え、素材のリピート感が目立たないように調整された