>   >  VFXアナトミー:生身の役者たちと"共演"するフルCGの犬とデジタルヒューマン〜映画『Diner ダイナー』
生身の役者たちと"共演"するフルCGの犬とデジタルヒューマン〜映画『Diner ダイナー』

生身の役者たちと"共演"するフルCGの犬とデジタルヒューマン〜映画『Diner ダイナー』

<2>アセット制作&キャラクターアニメーション

カットに応じてアプローチを使い分ける

本郷さんが演じる一見幼い子供のような姿だが、それは大人の男性が全身整形やホルモン注射、さらには骨格にまで手を加えた結果という殺し屋のキッドについては、登場カットの演技内容や撮影手法に応じて次の3つのアプローチで制作された;

〈1〉バストアップは、本郷さんを全身撮影して体だけ2D合成でリサイズ
〈2〉子役・竹沢悠真さんで撮影し、極力同じ環境で撮影した本郷さんの顔を2Dで合成(この場合は、可能な限りカメラはFIXで撮影)
〈3〉子役が演じたプレートに対して、本郷さんのデジタルヒューマン(頭部)を合成(余談だが、VFXチーム内では「ローガンカット」と呼んでいたそうだ)

......〈3〉が最も難易度が高く、ハイコストな手法のため、4カットに厳選。キッドのデジタルヒューマン用の頭部モデルについては先述のとおりLightCageでスキャンしたメッシュモデルとテクスチャをベースに作成された。キッドの頭部モデル制作も渡嘉敷氏がリード。「3Dスキャンデータからデジタルヒューマン用モデルを作成するのは初めての経験でしたが、非常にやりやすかったです。フルスクラッチで同等クオリティを出そうとしたら約2倍の時間が必要になったと思います。一番大事な本人に似せるという意味でも、スキャンデータが正解なので迷いなくスムーズに作業を進めることができました。眼球、耳の中、口の中については3Dスキャンできないのでイチから手作業になりますが、3Dスキャンを利用できたので、それらのつくり込みに時間を費やすことができました。細かなシワなどは、ZBrushのアルファで描き込んだり、ディスプレイスメントマップを出したりして精度を高めています」(渡嘉敷氏)。キッドのアニメーションをリードした阪上和也氏いわく「全て手付けですが、フェイシャルパターンとリファレンスが良質で種類も十分用意されていたので困ることはありませんでした。歯並びが見えるカットについては、違和感が出ないようにご本人の写真などを参考にカットバイで並べ直したりもしています」。

菊千代のリグ&セットアップはMini Engineが自作したリグを採用。ショットワークについてはMini Engineとエヌ・デザインチームでアニメーション以降の作業が分岐したため、エヌ・デザインの環境に合わせて調整したリグも用意された。「早さを追求するためにリグ自体をシンプルにしました。もちろん様々なコントローラやシミュレーションに対応する必要もあったので、最終的には複雑化していますが、レイヤーに分けることでブロッキングの際には不要なジオメトリやスキニングの情報が読み込まれないように設定するなど、アニメーション作業のステージに応じてリグの重さを制御できる方法を採っています」と、清水氏が説明してくれた。



Mayaで形状と質感がブラッシュアップされた菊千代の本番モデル



  • 毛なし(メッシュ表示)



  • 【左の画像】のレンダリングイメージ



  • Yetiで生成した毛あり(メッシュ表示)



  • 【左の画像】のレンダリングイメージ

自然な毛並みを作成するにあたっては、Yeti作業時にノイズ関数が使用された。図では、GrowNodeのLength Multiplierにhash(id)を追加


菊千代のリグ&セットアップ

ボディのセットアップUI。早さを追求するためにリグ自体をシンプルに。もちろん様々なコントローラやシミュレーションに対応する必要もあったが、レイヤーを分けることで、ブロッキングの際には不要のジオメトリやスキニングの情報が読み込まれないように設定し、アニメーションのステージに分けてリグの重さを制御できる方法が採用された

フェイシャルセットアップUI


nClothによる筋肉シミュレーション例



  • セカンダリ用のコントローラで耳や唇、まぶたの動きを手付けする



  • シミュレーション用モデルを使い、カットごとにInputAttractをペイントして調整。皮のシワに沿って影響を受ける数値を変動させたりもしている



  • シミュレーションの結果をレンダリング用モデルに反映。シミュレーションの皮がたるみすぎていたり、めりこみなどが目立っている



  • アニメーションの形とシミュレーションの形をブレンドしてちょうど良い数値を探っていく

どうしてもめり込みが解消できない箇所についてはMush3Dを用いてモデルを修正。図のキッドの頭に噛みつくカットでは、プライマリシミュレーションの後にMush3Dで形状の調整した上でセカンダリシミュレーションを実行している


キッドのデジタルヒューマン(完成モデル)

LightCage撮影時の本人(図中・左)とレンダリングイメージ(図中・右)を比較したもの

【上の画像】に対して質感調整用に、Maya上でLightCageのライティング環境を再現してレンダリングした画像

テストライティング環境(Mayaのシーンファイル)


キッドのフェイシャルリグ&セットアップ



  • セットアップモデル



  • フェイシャルパター

より細かく調整できるように追加したオフセットコントローラ。スカルプトによる調整を前提としたセットアップになっている


菊千代のアニメーション作業例。図は、クライマックスに描かれる下手にある椅子から飛び降りてカメラ側にボンベロ&カナコと歩いてくるカット。「飛び跳ねるときや走っているときなど、ピンと体を反らすタイミングでしっかりと手足や背中を伸ばしてブルドッグの分厚くたるんだ皮膚に隠れてしまいがちな犬の骨格や筋肉を感じるしなやかなポーズを意識しました。胴体部分はひときわ関節がわかりにくく、1つの塊に見えてしまいがちなので特に意識しました。また、レンダリングして体毛が加わると、さらに埋もれてしまうため再度ポーズを付け直した箇所もあります」(山本智彬氏)


キッド(デジタルヒューマン)のアニメーション作業例。Maya上で、リグを使いアニメート。BlendShapeベースのコントローラおよび各部位の調整コントローラを使用して、実写(図中・右)の表情や演技を参照しながら動きが詰められた

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<3>エフェクト、ライティング&コンポジット