<3>エフェクト、ライティング&コンポジット
モダンなテクノロジーを積極的に導入する
3DCGエフェクトは、エヌ・デザインの与那嶺まこ氏と、フリーランスとして大型案件のエフェクトを数多く手がけている北川茂臣氏と村上勝和氏の3氏で担当した。破壊や煙の表現を中心に、主にはHoudiniを使用したという。
「エヌ・デザインが担当したものについては3ds MaxのFXプラグインも利用しています。本作特有のエフェクトとして、菊千代のよだれがあるのですが、こちらにはHoudiniのFLIPを利用しました」(与那嶺氏)。
菊千代の毛並みとキッドの髪の毛についてはYetiを採用。「大きく映るカットも多いので、キッドは標準的な成人男性と同等の約10万本。菊千代の毛もリアルになるよう数十万本を設定しました。作業負荷も考慮してシミュレーションはさせていません。普段はモデラーとして活動しているのですが、ヘア表現について見識を深める良い機会になりました。今後の仕事にも活かしていきたいです」(向後 憲氏)。
レンダラはArnoldが採用された。「これまでV-Rayを主に利用していたのですが、『LOGAN』でImage EngineがArnoldを採用していたことが決め手になりました」(野﨑氏)。エヌ・デザインとしては、Arnold+Yeti(毛はヘアシェーダを使用)という組み合わせの案件は初となったため、最初の1ヶ月ほどは様々な検証を行なったという。「パラメータがシンプルなので、迷うことなく作業を進めることができたのですが、従来はあまり用いてこなかったレンダーパスが必要になったことに加え、毛のパスが集約されて出てきたりと少し戸惑ったところもありました。またワークフロー面では、藤原(源人)さんがMayaのシーンファイルを直接開かずにテキストベースで編集できるしくみを構築してくれたことにとても助けられました」と、ライティングリードを務めた基 荘一郎氏はふり返る。レンダーサーバは社内約20台(クランチタイムにはレンタルPCを追加)、レンダリング時間は1フレーム約1時間、クローズドショットでは最大6時間に達したという。コンポジット作業は、柴亜佳里コンポジットディレクターを中心とする3名にフリーランスを加えた約10名が担当(メインツールはNUKE)。撮影時に菊千代を演じたアクション俳優が着たグリーンマンの消し込み作業には何かと苦労したそうだが、パースマップ等を利用しながら完遂したという。
最後に野﨑氏が本プロジェクトを総括してくれた。「清水さんや渡嘉敷さんたち海外で活躍するアーティストの方々にも参加していただき、ハリウッド映画のVFXにも利用されている手法を用いることでリアルな菊千代とキッドをつくり出すことができました。作品を観ていただいた方に『菊千代がかわいかった』と言ってもらえたときは嬉しかったですね。ツールやワークフロー面でも新しい試みが実践できましたし、うちのスタッフもとても良い刺激を受けたと思います」。
キッドの表現パターン1
キッドの表現パターン1(役者自身の身体をリサイズ&合成)によるNUKE作業の例。SplineWarpで本郷さんのボディを縮小。「最初はなるべく大げさに小さくして、後からSplineWarpのrootwarpで大きさを調整できるようにしていました」(柴氏)
キッドの表現パターン2
キッドの表現パターン2(子役の身体に、本郷さん自身の頭を合成)によるNUKE作業の例
キッドの表現パターン3
キッドの表現パターン3(子役の身体に、3DCGの頭部を合成)におけるCGワーク例
デジタルヒューマン(メッシュ表示)
デジタルヒューマンショットのコンポジットのワークフロー。NUKEの作業UI。上から、キッドのbeauty、カラーコレクション、タートルネックの合成、マスクを足している
ブレイクダウン
菊千代のショットワーク
菊千代の3Dエフェクト作業例。HoudiniのFLIPでよだれの飛沫をシミュレーション。その結果をメッシュ化した後、Maya(Arnold)でレンダリングするためにAlembicで書き出す
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菊千代のビューティパスをまとめたコンタクトシート。データ系の素材は別途書き出している
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NUKEの作業UI。実写プレートにshadowを落とし、CG素材(菊千代、よだれ)を合成。実写プレートには、グロー系のフィルタがかかっていたため、下の方でフィルタを再現している
ブレイクダウン
ディープコンポジットによるマットアウト利用例
Deepを使用して、よだれの飛沫を菊千代でマットアウト
一連のコンポジットワークが施された完成形
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