>   >  VFXアナトミー:広大なセットエクステンションやモニターグラフィックスなど、多種多様なVFXがつくる実在感のある近未来、映画『AI崩壊』
広大なセットエクステンションやモニターグラフィックスなど、多種多様なVFXがつくる実在感のある近未来、映画『AI崩壊』

広大なセットエクステンションやモニターグラフィックスなど、多種多様なVFXがつくる実在感のある近未来、映画『AI崩壊』

02 AI監視システム『百眼』

数千もの素材を組み合わせて近未来の監視システムを表現

『百眼』のシーンは111カット。そのモニターグラフィックス表現では、10年後(2030年)の近未来のため、いわゆるSF映画のような極端な技術の飛躍はないはずという方針の下、ボイスコントロールの延長という路線で画づくりが進められたという。『百眼』のモニターグラフィックスは、各所に配置された監視カメラやデータサーバから取得した画像や文字情報、それらを基に分析した結果に基づく桐生の逃走ルートのシミュレーション等が常時表示されるため、多重合成の負荷と、物語の展開や登場人物たちの言動との整合性を保つ手間が求められた。必然的に入江監督の演出指示は細部にまでおよんだそうだ。「撮影の途中から、監督補を務めた岸塚(祐季)さんを中心とするB班が編成されました。B班では、主に『百眼』のモニタ演出に必要な実写素材やキャストが介在しない状況説明シーン向けの撮影を担当されたのですが、撮影者によって機材やフォーマットが異なるため、効率良くプレビューや編集を行う目的でDaVinci Resolveを追加で導入しました」(赤羽氏)。『百眼』シーンを担当したIMAGICA Lab.の渡 美緒氏は次のように語る。「B班の素材は4,000ファイルに達しました。例えば、『ひまわり』に関するモニターグラフィックスでは1カット中に100以上の素材を使用しました。撮影時のモニタ操演用の素材作成から参加されていた田中(聡美)さんがベースをつくってくださっていたので助かりました」。

『百眼』のモニタは3画面で構成されており、両脇のモニタには監視カメラなどから取得した映像を表示、中央のメインモニタには『百眼』が実行する分析結果等が表示される。合成する中画の加工はAfter Effects(以下、AE)で行い、ショットとしてのコンポジット作業はNUKEを利用。画面内にAEで作成した素材をランダムに表示させるためのスクリプトを組むことで作業効率を高めたりもしたそうだ。「ベースが定まるまで時間がかかりました。何のためにこの映像が表示されているのか、いただいた原稿を基に表示される画像や文字情報のひとつひとつに整合性が保たれているか確認しながら作業を進めました。当初から参加させていただいたこともあって、最後まで楽しくやり遂げることができました」と、田中氏。そして、制作全体の進行管理を務めた古橋由衣氏は次のようにふり返る。「クオリティに関しては、アーティストの皆さんが優秀なので安心しておまかせできました。私自身が心がけていたのは"間違えないこと"です。特に『百眼』の素材は膨大な量だったので、作品全体のタイムラインやシーン状況を考えながら、作業内容を正しく伝えることに気を遣いました」。

実写撮影時にセット内のモニタに表示された叩き台のモニターグラフィックス(コアフレームが制作)。これらをベースに、各シーンに応じた改良が重ねられた



  • 向かって左側のモニタ表示用



  • 同・右側

同・中央。『百眼』は3つのモニタで構成されているが、左右には監視カメラから取得したイメージ、中央には監視情報に基づく分析や指示に対する結果が表示されるという設定


劇中に登場する完成形



  • 向かって左側のモニタ表示用



  • 同・右側

同・中央。なお地図についてはゼンリン協力の下、現実のデータを参照することができたという


モニターグラフィックス作業を担当するアーティスト向けに作成された原稿(映像演出の段取りをまとめたもの)の例。シーン設定に基づき、内容が細部まで詰められていたことがわかる


モニターグラフィックスのブラッシュアップ例

途中段階。中画を仮ではめ込みながら、表示させる内容やスピード・数など、テイクを重ねて表現を模索していく

完成形。GPSや船のスペック、衛星画像、ネットから引用した写真など、実際にこんなAIがあったらどんな情報を集積するだろうかと考えながら内容を構成


『百眼』を構成する3つのモニタを捉えたロングショットの作業変遷



  • 実写プレート



  • 初期。仮ではめ込みながら、『百眼』の中画表現を模索していく



  • 途中段階。このときの監督からのフィードバックは「地図をわかりやすく、道路の境界がはっきり見えるように、監視カメラが発見した赤い円状のマークに濃淡を、モニタが全体的にちょっと暗い」というものだった



  • 【左画像】のフィードバックに対応した上でマスク、キーイングを詰めつつ、監視カメラの差し替えといった微調整を施した完成形


『百眼』の「3D演算モード」のテスト。2030年の監視システムであれば、2D画像から3Dデータを生成できるのではないかというアイデアから生まれた表現である



  • ドローンで撮影した実写素材



  • 【左画像】を基にフォトグラメトリーから作成した3Dデータ



  • ドローン視点からのプレビュー



  • ワイヤーフレームの映像演出


本編に登場する「3D演算モード」の例。監視カメラ〜ドローン素材〜芝居素材と、カット途中で切り替わるカメラを繋いで構成している

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03 監視ドローン『フライ』ほか

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