03 監視ドローン『フライ』ほか
その形状や機構にも物理的な整合性を保つ
本作のVFXはインビジブルエフェクトが中心だが、警視庁の監視用・小型ドローン『フライ』はキャラクター性のあるユニークな表現に仕上がっている(劇中でも重要な役割を担う)。モデリングからショットワークまで担当したのは、五十嵐丈久氏が率いたSiBaFuのチーム(最終的なコンポジットワークはCHICAが担当)。まずは、別のデザイナーが担当したコンセプトモデルをブラッシュアップしていったという。「2030年という近未来に、監視用途のドローンはどのようなかたちで運用されているのか、ファンタジーにならないように気をつけながらリアリティを追求しました。本物の蜂やドローンの動きをリファレンスにしつつ、モデリングでは全てのパーツに意味をもたせた構造に仕上げました。アニメーションでは、桐生を見つけたときのアップショットの際に、レンズの絞りを変える動きを加えることで表情を出したりして無機質なメカでありながらもキャラクター性が出るように工夫 しています。"10年後に答え合わせができること"をSiBaFu独自の裏テーマに掲げていたのですが、どれだけ正解に近づけたのか今から楽しみです」(五十嵐氏)。
『翔んで埼玉』VFXメイキング記事(本誌248号に掲載)中でも言及したが、赤羽氏は国内でいち早くShotgunを導入しており、今回も約900ショットというも大物量かつ、『百眼』を中心とする複雑なVFX制作を効率良く管理する上で役立ったようだ。デジタル・アトム・ラボの吹谷氏いわく「今回初めてご一緒させていただきましたが、Shotgunだけでは上手く伝えられないニュアンスなども赤羽さんと古橋さんは非常にわかりやすく、丁寧に説明してくださったので助かりました。赤羽さんの"最後にはしっかりと終わらせる力"は本当にすごいと思います」。ポスプロ工程の監督チェックは週1ペースで行われたそうだが、とにかく物量が多いことに加え、入江監督のリアリティへの強いこだわりから、毎回長時間を費やしたそうだ。最後に赤羽氏が本プロジェクトを総括してくれた。「医療や監視システムといった、専門性の高い内容をVFXによって明快に表現することが本作のミッションだったと思います。3ヶ月で約900ショットを制作、ひとつひとつのVFXも1カットに対する作業負荷としては重いものが多かったのでなかなか大変な案件でしたが、皆で協力することでやりきれました。好評いただいているようですし、参加できて良かったです」。
※映画『AI崩壊』のVFXに関する詳細は、Blu-ray & DVD プレミアム・エディション映像特典 『必見!VFXプロデューサーが語るVFXの舞台裏』に収録されています。
監視用の小型ドローン『フライ』のコンセプトモデル
コンセプトモデルをベースにブラッシュアップした3DCGモデル
デザイン案
最終的に採用されたデザイン。ここからさらにディテール調整が施された
『フライ』完成モデル
前半に登場するアップショットの作業変遷
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初期のアニメーション。モデリングと並行して作業が行われたため、形状が異なる
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モデルの変更に伴い、カメラが目であることをを認識させるべく絞りを変えるような動きやグルッと正面に目が向くなどのアニメーションを調整
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視認しやすくするため、サイズをひと回り拡大しつつ、マイク部分を動かしたりするなどの微調整&ブラッシュアップ。羽の動きの周波数にも留意したという
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完成形。コンポジット作業では、車窓外に迫るフライを表現するために窓ガラス越しでも視認性が保たれるように配慮された
桐生が逃亡に利用したRO-RO船「ひまわり」の表現では、3DCGで作成した船を用いたショット(モデリングからコンポジットまで一括してトゥエンティイレブンが担当)に加え、精巧な模型を素材にしたショット(図)も登場する。こちらは、笠原由起氏(フリーランス)が担当した
模型の実写素材。横倒しにした状態で撮影
一連のコンポジットワークが施された完成形。主には、1.模型をレタッチ(現実の船らしく)、2.別カットで登場するCGの船との整合性、3.実写素材(海面、航跡波、上昇する際の雲)との合成、4.ナイトシーンへの加工(※暗闇での海上の撮影は不可能なため)という4つのポイントを中心に作業が行われた。またこのカットは上空へと大きくカメラが引いていくため、タイミングやスピードといったカメラワークの設計も求められた