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フォトリアルで躍動感あふれるフルCGアニメーション、電気グルーヴ『Set you Free』MV

フォトリアルで躍動感あふれるフルCGアニメーション、電気グルーヴ『Set you Free』MV

<2>アニメーション&ショットワーク

シミュレーション時間を要する水飛沫のトライ&エラー

先述のとおり、波飛沫等の流体シミュレーションはジョナサン氏がリード。まずは、クルマのモデルを使い水面から飛んで着水するテスト映像が試作されたが、このテスト映像の出来映えを田中監督に気に入ってもらえたことからフルCGで仕上げることに決まった。ジョナサン氏は次のようにふり返る。「基本的にはリアルスケールでシミュレーションを行なって、どこまでコントロールできるかバランスを考えながら、パーティクルの数を増減させたりしつつトライ&エラーのくり返しでした。今までPhoenix FDでは炎と煙しかやってこなかったので、新しいチャレンジとなりました。今回ノウハウが蓄積されて、新しい引き出しが増えたと思います」。水飛沫はカットごとにレイアウトしていくが、数が多すぎるとメモリ64GBのマシンでもメモリ不足でレンダリングが回らないエラーが頻発したため、シーンを分けたりしながら対応した。「ひたすら数との戦いでした。Deadline(レンダリングジョブのディスパッチャー)に投げて確認すると水飛沫だけなかったり、エラーを探しながらどこを削減して回るように調整するか、いかに効率良くエラーを潰していくかが重要でした」と中山敬太CGデザイナー。水飛沫のシミュレーションはループではなく全尺に対して行われ、電気グルーヴの2人を模した巨像が海上に浮上するシーンでは、10時間以上ものシミュレーション時間を要したそうだ。最初はDeadlineにキューを投げていたが、トライ&エラーの結果、メモリ搭載量が多くCPU性能(コア数よりクロックスピード重視)に優れた2~3台を使って、ローカルで一気に回したという。ほかにも、時間との戦いとなることが最初から予想できていたため、最悪の場合、パース感が失われ面白みに欠けるものの、遠目の要素は書き割りを検討。100mm程度のレンズで極力パースを付けない方向でスタートした。しかし検証の結果、レンダリング時間がスケジュールに収まりそうだと判り、ダイナミックにカメラアニメーションを付けることに。作品のクオリティを保つことに成功した。

ライティングはVRaySunとVRaySkyを使用してキーとなる光源を当てつつ、空の素材取得と海などへのリフレクションにだけHDRIを使用。VRayPhysicalCameraでVrayExposureを使用、露出を制御して整えている。VRaySunとVRaySkyは短時間で十分にリアルな表現ができるので他案件でも頻繁に使用しているそうだ。コンポジットはAfter Effectsで行われ、少しノイジーに見えた海の奥にデノイズをかけたり、露出の制御、レンズフレアなどの演出が施された。

流体ダイナミクス

▲流体ダイナミクスはPhoenix FDを使用。海洋と水飛沫を3ds Max上でシミュレーションしている

Mayaによるレイアウト作業

▲ロケーターとアニメーション付きAlembicファイル(A・B・C)をセットで配置。ロケーターにはA・B・Cの場所、回転、スケール、アニメーションのタイミングの情報を格納している

▲水のシミュレーションは複製して使いまわすため、1回のジャンプにつき1個のオブジェクトを配置。1つの群れを表現するのに130体ほどのロケーター付きA・B・Cを配置している。プリビズはこの状態で行い、OK後ロケーターのみエクスポート。3ds Max上で、プリビズと共通のA・B・Cと水のシミュレーションをロケーターの情報に従い再配置した

オブジェクトとPhoenix FD

▲3ds Maxに配置したオブジェクトとPhoenix FD

After Effectsによるコンポジット作業とブレイクダウン



  • ▲空素材



  • ▲海(奥方向)



  • ▲陸地



  • ▲海(手前)とオブジェクト



  • ▲全レイヤー+フレア込みのコンプ



  • ▲カレコレ適用後

V-Rayによるライティング設定

▲リアルな光量を得るためにVRaySunとVRaySkyを使用し、VRayExposureで適切な露出に調整。Dome LightのHDRIは今回は空素材取得と海などへの映り込み用に限定して使用した

▲MV本編前半、日中の写り込み用に使用したHDRI画像とVRayDomeの設定。映り込みとして使用するので、Affect ReflectionのみをONにしている 

本MV制作の作業PCおよびレンダーファームのスペック一覧

▲作業PC

▲レンダーファーム(42台)

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<3>フォトグラメトリー&UE4の活用

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