<3>フォトグラメトリー&UE4の活用
電気グルーヴの2人の魅力をフォトグラメトリで引き出す
水飛沫のないカット3・5・6と、つなぎのインサートカット(トータルで約1分30秒)は、納品までの時間が少ないことからUE4を活用して、レンダリング負荷を節減。クオリティを落とすことなくレンダリング時間を短縮できるということで非常に重宝したという。FLUXでは以前からリアルタイム系の勉強を各スタッフが行なっており、ここ1年くらいは仕事でもしっかりと使い始めているとのことだ。
MV本編2:36頃、電気グルーヴの2人を模した巨像が海から浮上するという印象深いシーンでは、3Dスキャンも活用された。アーティストのモデルは8月上旬に、CyberHuman Productionsでフォトグラメトリ(3Dスキャン撮影)が行われ、一連の調整が施された状態でFLUXに提供された。最終的にはリップシンクにも対応する必要があったため、ZBrushのZWrapを使用して、綺麗なメッシュのながれを意識したリトポロジーが行われた。相応に質感にもこだわっており、リアルなSSS(サブサーフェス・スキャタリング)を適用した人肌の質感ではなく、海中から浮かび上がってくることから船を意識した鉄っぽい質感を目指し、Substance Painterを使用してテクスチャとマテリアルの設定を行なっている(スケール感としては大仏を意識しているとのこと)。
FLUX代表取締役で、本作のCGプロデューサーを務めた宮武泰明氏は本作の制作についてこう語る。「納期の短さが何よりも大変でしたね、この短期間でクオリティを落とすことなくよく仕上げられたなと思います。水表現の案件はけっこうやってきましたが、細かいところまで丁寧にできましたし、スタッフのみんなが本当によくがんばってくれました」。最後に、CGディレクターの高橋氏が総括してくれた。「今回のプロジェクトで、期間的に厳しい案件をどのようにして上手く終わらせるかということを非常に考えさせられました。時間との関係で、オブジェクトの数などに制限はかけさせてもらいましたが、端折るとか手を抜くとかいうことはせず、画に対して真摯に向き合うことが大事だと思っています。短期間でしたが、チームのみんなで最後までやりきることができました。そして改めて、UE4のレスポンスの速さがすごいと感じた案件でもありました。納品ギリギリの2時間前までカメラを修正しても大丈夫だったりと、全体的にクオリティを高めることができました。BlenderやNiagara、Houdiniなど、ほかにも気になるツールがたくさんあるので、ひき続きチャレンジしていきたいです」。
石野卓球のキャラクター制作
石野卓球のフォトグラメトリ撮影、キャラクターモデル制作、テクスチャリングのブレイクダウン
▲フォトグラメトリ撮影
▲ZBrushにPhotoScanデータをインポート(ソリッド/ワイヤーフレーム)
▲Substance Painterによるテクスチャリング。まずはPhotoScanデータをインポートし、その上からペイント
▲ZBrushでZWrapによるテクスチャプロジェクションを実行
▲リトポロジーしたモデルとプロジェクションしたテクスチャをベースに、Substance Painterでテクスチャリング作業を行なった
ピエール瀧のキャラクター制作
ピエール瀧のキャラクターモデル制作とテクスチャリングのブレイクダウン。手順は石野卓球のモデルと同様
▲ZWrapによるテクスチャプロジェクション
▲Substance Painterによるテクスチャリング作業
ショットワークのブレイクダウン
3ds Maxによるショットワークのブレイクダウン
▲3ds Maxの作業UI
▲完成形
UE4によるインサートカット
UE4によるインサートカットは基本的にMayaとUE4でやりとりを行いながらの制作となった。全アクタはムーバブルなため、UVの重なりなどをいっさい気にせずやり取りできたという。レンダリングはリフラクションも含めてレイトレ―スで行なった
▲Mayaのプロシージャルエフェクトシステム「MASH」でアニメーションとレイアウトを行なった後、インスタンスをオブジェクト化してUE4にエクスポート。数の多いラジカセは一括で、ギターは個別にスケルタルメッシュで読み込んでいる。なお、ラジカセは数が多いため、テクスチャベイクツールのxNormalでベイクしたローポリモデルを使用した
▲当初背景の陸地はマットで表現していたが、平面感がぬぐえず、納品直前にモデリングすることに変更。マーケットプレイスで購入したオブジェクトを3つほどインスタンスコピーして配置、UE4のHDRバックドロップを使って、3ds Maxと同じ環境でライティング。数時間でコンプに連番素材を渡すことができたという
UE4上でのカラコレ作業例
UE4上でのカラコレ作業例。今回、UE4のパートは素材分けをせずに、きた要望に対して迅速に対応するかたちで進める方針とし、一例としてカラコレの2時間前にカメラワークを変えるといった対応をしたという。素材はムービーレンダーキューを使い、グレーディング用に16bitのリニアで出力。また、今回はカラコレのベースにLUT集を用意し、そのベースを詰めていった。具体的には、OCIOでリニアのCG素材をALEXAのlog Cに変換後、良さそうなALEXA用のLUTを適用、グレーディング作業を行なった。UE4以外のカットについても同様に進められた
▲カラコレに加えてALEXAのlog C用のLUTを適用
▲UE4からの連番出力。[Disable Tone Curve]にチェックを入れて書き出した