<3>バイプレイヤーに徹する〜電車内シーン〜
成否の鍵をにぎるのは初期段階から参加すること
地下鉄車内のシーンに用いられた電車のモデルは、MIZUNO監督から提供されたプリレンダー用のモデルをラモウ氏がリアルタイムCG向けに最適化して用いられた。「プリレンダーで作成されたモデルデータの見た目のクオリティを保ちながら、できるだけ軽量化していきました。質感については、UE4のMaterial Instanceを活用しました」(ラモウ氏)。電車内のシーンで目を引くのが、つり革が自然に揺れている点だ。美術で車内のセットをつくったとしても、こうした自然な挙動を付けるには、手の込んだ操演が求められるだろう。そんな自然な吊り革の揺らぎは、Sinカーブを使って個々の振幅をランダムに追加することでつくり出された。このアニメーションをはじめ、一連のプログラミングを担当したのがUEエンジニアを務めた根岸雅人氏(REALIZE)だ。同氏は交通系の売上システムなどを手がけていた異業種のSEだったが、「面白い仕事がしたい」と、CG未経験でデジタル・ガーデン(当時)の門を叩いたという異色のキャリアの持ち主である。転職を機にUEやUnityを習得したそうだが、CG制作においてもプログラミングの活用が当たり前になってきた現在では、REALIZEチームにとって欠かせない人材だという。「現場で対応しやすい、現場を知った上でのプログラムやしくみづくりをしていきたいです。使う人が喜んでくれることが最大のモチベーションです」(根岸氏)。
VPを導入する上で、LEDウォールに投影するCG背景と美術の組み合わせのバランスが各スタジオの個性となる。本作では美術を積極的に使っているためリアル感が増し、VPが悪目立ちしてしまわないような配慮がなされている。これは念入りに準備をしてVPと美術のそれぞれの強みを検討した上でセットを組んだ結果だが、撮影からポスプロまでトータルで制作できるTREEの強みでもある。「CG・VFXは、もはや後工程ではありません。最初から最後まで携わる唯一の部署だと自負しています。VPの真価を発揮させる上では、CGは後工程という認識を改める必要があります。通常のCG・VFXについても基本的にはできるだけ企画の初期段階から参加することが望ましいのですが、その意味ではインカメラVFXのVPによって良いながれがきていると思います。VPに限らずこれからも新たな技法が出てくるので、ひき続きも『企画にマッチしていれば提案する』というスタンスで自分たちはクオリティを追求していくつもりです」(山田氏)。
プリビズ
▲MIZUNO監督によるプリビズ(レイアウト)
電車車内
電車車内のモデリングとベースマテリアルの制作
▲モデリングしたUE4用のローポリモデル
▲モジュール化してUE側で各パーツマテリアルをアサインした
マテリアル設定
透明・半透明オブジェクトのマテリアル設定
▲UE4上でのガラスなどの反射・屈折の設定。リアルタイムのゲームエンジンでの透明オブジェクトの反射・屈折表現は難易度が高いので、見た目のドラマチックな印象と軽さを確保するため、ここでは主にパフォーマンスコストの低い静的なReflection Captureを使用
▲ガラスの汚しをより良く見せるため、Material Instanceでマテリアルと汚し具合、強さなど調整できるようしくみ化
▲LEDディスプレイの文字表示もUE4のマテリアルで制御することで調整しやすくなっている
つり革の揺れ
▲つり革の「自然でランダム感のある揺れ」はBlueprintプログラムでコントロール
トンネルを走るライト
▲車輛の外、トンネルを走る動的なライトのコントロールにもBlueprintを活用。動的なライトのためパフォーマンスコストはやや高めだ