03 各話特有のVFX
監督陣との厚い信頼関係が効率化の源泉となる
先述のとおり、本作のCG・VFXワークでは「内容は削らずに、作業効率を高めることで対応」という方針が掲げられている。本作のHDR素材は、Theta Sで撮影した360度写真が用いられている。また、HDRIのレタッチについてもCG表現の特性に応じて必要最低限のバレ消しに止めているとのこと。作業効率を高める上では、CGチームとコンポジットチームの密な連携が不可欠だ。第28話のネガティブジュエラーのジンゾーがくり出す棘付き鋼鉄球のような攻撃エフェクト「ネガティブハンマー」の制作においても、森田VFXディレクターと松岡リードコンポジターが打ち合わせを重ね、CG制作は鉄球のアニメーションなど3DCGでしか不可能な作業に専念する一方で、鉄球の質感調整は基本的にNUKEによるコンポジットワークで行うというアプローチが採られた。また、ハンマーの衝撃でアイドル戦士たちのバリアにひびが入る表現については、After Effectsのシャター処理でベースを作成。そこに、ゆがみ表現(屈折)用のマスクと発光用マスクを巧く組み合わせることで表情豊かに仕上げている。このほか、火花は連番素材のアーカイブを活用するといった具合に、全ての作業をNUKEで行うのではなく、AEやPhotoshopなどの定番ツールも併用。臨機応変に使い分けている。
作業効率を高める取り組みの一環として、本作のエフェクト制作では、監督たちが適確にジャッジできるようにアニメーションチェックの段階でPlayblastではなく、色味や質感がある程度わかるルックにまで仕上げることが徹底されている。そして、一連の取り組みが有効に機能する根底には、三池総監督をはじめとする監督陣、中島VFXスーパーバイザーの柔軟なジャッジがあるという。その好例が、ネガティブジュエルの歩行アニメーション。第1話では、床に投げ落とされたネガティブジュエルに脚が生えてターゲットへと歩み寄るというアニメーションが付けられたが、これではコストがかかりすぎると森田氏たちが相談したところ、第1話だけの特別な表現に止めることになった。同様に、音楽の女神(舞羽美海)の登場シーンも当初は、グリーンバック撮影した役者をCGで作成した「音楽の城」背景セットに合成していたが、基本的にバストショットであり、顔にグローエフェクトがかかる(=背景はあまり見えない)と判断した中島氏が白バック(2D背景)に変更することを提案。三池総監督も了承したという。「若手も順調に育ってきていますし、ラストに向けて自分たちのやりたい画づくりの集大成みたいなものができればと思っています。外部パートナーさんの協力も不可欠でしたが、終盤はできるだけOLMデジタル内でやりきりたいですね。そして、それが各スタッフの 代表作、代表ショットとして、次へのステップアップにつなげていければ」(森田氏)。
第28話で戦う相手となるネガティブジュエラー「ジンゾー」がくり出す「ネガティブハンマー」のコンポジット作業例
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リコーのTheta Sで撮影した7段階露出のHDR素材
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HDR素材をPhotoshopの自動処理でHDRIとしてまとめ、NUKEでバレ消しや色合わせを行う。HDRIは、ガンマLinear、色域sRGBで32bitのOpenEXR形式としてCGチームに出荷。「それと同時に、カラーチャート、グレーボール、ロケ現場のリファレンスなどのDPXファイルもガンマ SLog3、色域Sony S-GamutのものをガンマLinear、色域sRGBに変換した上でCGチームに渡しています」(佐藤氏)
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レタッチとカラコレが施されたHDRI。レタッチ作業は足元の三脚や目立つものを消すのが主目的であり、使用されるCG素材のサイズやアニメーションを考慮して、どこまでバレ消しをするかはその都度判断。できるだけ手早く作業を済ませることを心がけているという
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CG素材の質感調整例。「HDRIをなるべく正確に配置するため、ほぼ全てのシーンのガイドとなるモデルを作成し、カメラを合わせるようにしています」(森田氏)
完成した本編CUTより。ハンマーのアセットは、ショット作業時に調整できるよう、棘の長さをシームレスに伸ばすことが可能となっている(ハンマー形状に変形する際に一時的に伸ばす等)。あくまで、鉄球として黒ずんだ、重いものを意識したアニメーションを心がけたそうだが、図のような画面手前に向かってくる動きはCGチームとしても納得の出来映えだという
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ネガティブハンマーのリファレンスコンポ。マルチパスの素材に加えて、CameraとAxisをFBXデータとしてCGチームから出荷し、Reconcile3Dにてハンマーの中心座標をXY情報としてOutput。光の筋や色収差エフェクトのCenterに利用している
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ネガティブハンマーのマルチパス素材。そのほかにもショットに応じて背景に対するオクルージョンや落ち影等も用いているとのこと
完成した本編CUTの例
ネガティブハンマーの衝撃で、ミラクルちゅーんず!たちのバリアにひび割れが生じる表現のコンポジット作業例
After Effectsの「シャター」エフェクトを使用して、ヒビのマスクとヒビを中心にシールド全体が凹んだ表現をするため用のマスクを作成
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ヒビのマスク。このマスク素材にNUKEでアニメーションを施し、ヒビ割れの主となる処理を行なっている
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シールドを歪ませて立体感を出すためのマップ。シャターエフェクトでライティングをした情報を使い、NUKE上で歪みを与えている
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NUKEのシーンファイル。シャターエフェクトマスクのシンプルさをDirBlurWrapper、S_WarpBubble、IDistort等のノードとフラクタルノイズを複数用いて、深みのある表現にブラッシュアップしている
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完成した本編CUTの例
ネガティブジュエルに取り憑かれ、ネガティブジュエラーと化してしまう表現は各話でバラエティに富んでいる。第23話の場合は、ネガティブジュエルを呑み込むと、その反動で鼻と耳の穴からエネルギーが噴き出すというインパクトあるVFXが施された
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噴き出るエネルギーは全16種類の素材で構成されているが、CG素材は過去のエピソード向けに作成したFumeFXで生成した汎用エフェクト素材1種類のみ。その他のノイズやパーティクルは、全てNUKEXで作成したものである
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NUKEによるエフェクト作業例。Node Graph上の紫色のバックドロップがネガティブジュエルのマルチパス。赤色のバックドロップがビームエフェクト素材
完成した本編CUTの例